こんな症状はありませんか?

手足の脱力(力が入らない)

なぜ手足の力が入らないの?

筋肉を動かそうとするとき、正常な場合は、脳が出した指令が脊髄に伝わり、末梢神経を経て筋肉が収縮して手や足などが動きます。力を入れようとがんばっても手足の力が入らない理由は、脳・脊髄から筋肉に至る経路のどこかに障害が生じていると考えられます。

また、どの部分に障害が起きているかによって、原因として考えられる病気は異なります。
末梢神経障害(ニューロパチー)による慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)多巣性運動ニューロパチー(MMN)では、末梢神経の様々な部位に炎症が起こり、炎症によって運動神経に障害が生じて、手足の脱力があらわれます。

CIDPとMMNについては、「CIDP・MMNを知る」のページをご参照ください。

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手足(筋肉)が動くということは

神経系を構成する基本単位をニューロン(神経細胞)といい、手や足などの筋肉(骨格筋)を支配しているのが運動ニューロンです。運動ニューロンには、脳(大脳の表面にある大脳皮質の運動野)から脳幹又は脊髄まで軸索を延ばしている中枢神経系の上位運動ニューロンと、脳幹・脊髄から筋肉へと軸索を延ばしている末梢神経系の下位運動ニューロンがあります。
筋肉は、次のように、脳の指令が伝わることによって動きます。

  1. 上位運動ニューロンが指令を出す。
  2. 指令は、電気信号として上位運動ニューロンの軸索を通して下位運動ニューロンまで伝わる。
  3. 電気信号は、下位運動ニューロンの軸索を伝わる。
  4. 下位運動ニューロンの軸索の末端にあるシナプスから伝達物質の形で指令が筋肉に伝わって、筋肉が収縮し、手足などが動く。
画像:神経細胞
この経路のどこに障害が起きても、運動障害が起こり、脱力(力が入らない)、筋萎縮(筋肉がやせる)、運動まひなどが生じます。
  • 上位運動ニューロンの障害:脳の外傷、脳出血、脳梗塞、脳腫瘍など
  • 上位~下位運動ニューロンの障害:筋萎縮性側索硬化症(ALS)など
  • 上位運動ニューロンの軸索や脳幹・脊髄の障害:脳梗塞、脳出血、外傷による脊髄損傷、多発性硬化症など
  • 末梢神経(下位運動ニューロンの軸索部分)の障害:慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)多巣性運動ニューロパチー(MMN)といった末梢神経障害など
  • 筋肉自体の障害:筋ジストロフィー、多発筋炎・皮膚筋炎など

なお、脱力感や倦怠感があるといっても、貧血、悪性腫瘍、感染症といった全身疾患、過度の疲れ、筋肉痛、関節痛が原因で、(真の意味での)筋力の低下ではないことがあります。一方、脱力(力が入らないこと)をしびれと感じる(表現する)患者さんもいます。

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筋肉には、骨格筋と内臓筋があります。

  • 骨格筋:骨や関節などに付いている筋肉で、その収縮によって体を支えたり、手足などを動かしたりします。自分の意思で動かすことができるため、随意筋と呼ばれています。骨格筋は、運動神経によって支配されています。一般に、筋肉といえば骨格筋を指します。
  • 内臓筋:平滑筋と心筋があり、いずれも自分の意思で動かすことのできない不随意筋です。自律神経によって支配されています。
    平滑筋は、食道、胃、腸、子宮、膀胱などの内臓や、血管などを動かす筋肉です。
    心筋は、心臓の壁を構成する筋肉です。

末梢神経障害(ニューロパチー)とは

脳と脊髄から構成される神経系を中枢神経系(以降は中枢神経と表現します)といい、中枢神経から枝分かれして、途中で合流したり、また枝分かれしたりして、体のいろいろな部位に延びている神経系を末梢神経系(以降は末梢神経と表現します)といいます。末梢神経は、体性神経と自律神経に大きく分けられ、体性神経は運動神経と感覚神経に、自律神経は交感神経と副交感神経に分けられます。
末梢神経障害とは、末梢神経のどこかに障害が起こり、その働きが悪くなっていることをいいます。

画像:末梢神経障害(ニューロパチー)とは

末梢神経障害を引き起こす病気・原因は多岐にわたります。以下に、主なものを挙げます。

免疫性(自己免疫が関係):

  • 慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)
  • 多巣性運動ニューロパチー(MMN)
  • ギラン・バレー症候群:多発する末梢神経障害で、CIDPやMMNと異なり、急性に発症、急速に進行します。

CIDPとMMNについては「CIDP・MMNを知る」のページを、ギラン・バレー症候群については「CIDP・MMNを知る」の「CIDP・MMNと間違いやすい病気は?」のページもご参照ください。

腫瘍性:

  • クロウ・深瀬症候群(POEMS症候群):骨髄などで形質細胞(白血球の一種であるBリンパ球から生じた細胞)が異常に増えながら血管内皮増殖因子(VEGF)というタンパク質を過剰に産生することで生じる病気です。
  • 悪性リンパ腫に伴うニューロパチー:腫瘍細胞が直接的又は間接的に末梢神経を障害することで生じる病気です。

遺伝性:

  • シャルコー・マリー・トゥース病:遺伝子の異常による(末梢神経が遺伝的に障害される)病気です。
  • 遺伝性圧脆弱性ニューロパチー:遺伝子の異常で末梢神経に脆弱性が生じ、軽い圧迫、外傷、繰り返しの筋肉の使用によって、容易に末梢神経が損傷してしまう病気です。

代謝・栄養欠乏性:

  • 糖尿病(末梢神経障害の原因として最も多い):
    糖尿病で血糖値が高い状態が続くと、多量のブドウ糖が細胞内に取り込まれます。そして、ブドウ糖が変化してできたソルビトールという糖が神経細胞に蓄積する、血管を傷つけて血流が悪くなり栄養や酸素が神経に届かなくなる、といったことなどが原因で末梢神経に障害が起こります。
    糖尿病性神経障害で運動神経や感覚神経に障害が起こると、足の先がしびれる、足が熱い・冷える、手や足の感覚が鈍くなる、足の裏に紙が貼りついたような感覚があるなどの症状が起こってきます。さらに、糖尿病性神経障害では、体性神経だけでなく、自律神経にも障害が起こります。自律神経は、血圧、呼吸、体温、心拍、消化、排尿・排便などを調節しています。糖尿病性神経障害で自律神経に障害が起こると、立ちくらみ、排尿障害、下痢、便秘などの様々な症状が起こります。
  • 代謝・栄養欠乏性の末梢神経障害を引き起こす原因として、他に以下のものがあります。
    ビタミン欠乏(ビタミンB1、2、6、12、ビタミンEなど):代表的なものはビタミンB1欠乏によるニューロパチー(脚気)です。
    多量の飲酒、アルコール依存症:長期間のアルコール摂取によって末梢神経が障害される病気です。

感染性:

  • 後天性免疫不全症候群(AIDS/エイズ)
  • 帯状疱疹

膠原病性:

  • 全身性エリテマトーデス:全身の様々な部位に炎症を起こす自己免疫疾患で、神経を栄養する血管に炎症が起こり、血管が閉塞することで発症します。
  • 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症:好酸球が異常に増加し、神経を栄養する血管に炎症を起こすことで発症します。
  • シェーグレン症候群:涙腺、唾液腺などの全身の外分泌腺(汗、唾液などの分泌物を体の外に排出する管)に炎症を起こす自己免疫疾患です。

薬剤性:

  • 抗悪性腫瘍薬、抗ウイルス薬、抗結核薬

中毒性:

  • 重金属(鉛、水銀、タリウム等)、農薬(有機リン)、有機溶剤

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末梢神経障害は、原因も多岐にわたりますが、障害される神経によって生じる症状も様々です。

運動神経が障害されたら

脱力(力が入らない)のため

  • ペットボトルのフタが開けられない
  • 物を持ち上げられない
  • 握力が落ちた
  • 箸を上手に使えない・持てない
  • 腕が上がらない
  • 物をつかめない・よく落とす
  • ボタンの開け閉めがしにくい
  • 足がすっと出ない
  • 歩きにくい・転びやすい
  • 階段や坂道の上り下りがきつい
  • ふらつく
  • よくつまずく・つまずきやすい
  • 立ち上がるのが難しい
  • スリッパが脱げやすい

など

感覚神経が障害されたら

感覚の異常・まひのため

  • 手足がしびれる(ビリビリ・ピリピリ・ジーン・ジンジンする)
  • 手足の感覚が変だと感じる
  • 感覚が鈍い
  • 熱さや冷たさを感じない
  • 触られた感じがわかりにくい
  • 痛みを感じにくい

など

自律神経が障害されたら

  • 起立性低血圧・立ちくらみ
  • めまい、ふらつき
  • 疲れやすい
  • 気分不快
  • 不整脈、頻脈
  • 便秘、下痢
  • 排尿障害
  • 発汗の異常

など

手足のふるえ(振戦)とは

自分の意思とは関係なく、手や足(四肢)、頭、顔など、体の一部に起こる、規則正しくリズミカルなふるえを振戦といいます。振戦は、筋肉が収縮と弛緩(ゆるむ)を繰り返してしまうときに起こります。

生理的なものと病的なものがあります。

  • 生理的なもの:寒いとき、緊張したとき、ストレス時など、日常生活でも起こる生理現象としてのふるえ
  • 病的なもの:脳や末梢神経の異常や薬の使用によって引き起こされる異常なふるえ

末梢神経障害による慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)多巣性運動ニューロパチー(MMN)では、末梢神経の様々な部位に炎症が起こり、炎症によって運動神経や感覚神経に障害が生じるといった複合的な要因で、手足のふるえがあらわれることがあります。

CIDPとMMNについては、「CIDP・MMNを知る」のページをご参照ください。

ふるえを引き起こす他の病気のうち、主なものを挙げます。

  • 本態性振戦:生理的なふるえが起こるような状況でもないのに、手や頭などに生じるふるえのことです。小脳の機能異常と考えられていますが、詳しい原因はよくわかっていません。
    字がうまく書けない、箸を上手に使えない、コップの水をこぼしてしまう、リモコンのボタンを正確に押せないなど、日常生活に影響が及ぶことがありますが、ほとんどの場合、進行することはありません。
  • パーキンソン病:脳の黒質という部分に存在するドパミンニューロン(ドパミン神経細胞)が減り、そこで作られるドパミン(神経伝達物質)が減ることによって起こる病気です。脳内の情報伝達がうまくいかなくなります。
    パーキンソン病では、静止時振戦がみられます。振戦以外に、歩行が困難になる、動作が鈍い、顔つきが無表情になる、姿勢を保つのが難しい(転びやすい)などの症状があらわれます。
  • 甲状腺機能亢進症:喉ぼとけの付近にある甲状腺が刺激されて、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで起こる病気で、自己免疫疾患の一つです。
    振戦以外に、食欲は増すのに体重が減る、汗を異常にかく、イライラしやすいなどの症状があらわれます。

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自己免疫疾患とは

細菌やウイルスなどの自己と異なるもの(異物)を排除する役割を持つ免疫系が、自分自身の正常な組織を“敵”とみなして攻撃してしまう病気です。
全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群など様々な病気があり、末梢神経障害によって起こる慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)多巣性運動ニューロパチー(MMN)も自己免疫疾患です。
CIDPやMMNは、軸索(神経系で信号を送る役割を持つ)を保護しているミエリン(髄鞘)を、免疫系が攻撃してしまうことで起こると考えられています。

歩行障害とは

歩行は、脳が出した指令が脊髄を経て、末梢神経(運動神経)に伝わり、筋肉を動かし、末梢神経(感覚神経)から足の位置などの情報が脳に伝わって体のバランスを維持することで可能となります。歩行障害は、歩くためのこの経路のどこかに障害がある場合に起こります。

末梢神経障害による慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)多巣性運動ニューロパチー(MMN)では、末梢神経の様々な部位に炎症が起こり、炎症によって足の運動神経や感覚神経に障害が生じて、歩行障害があらわれることがあります。

CIDPとMMNについては、「CIDP・MMNを知る」のページをご参照ください。

手足の筋萎縮(筋肉がやせる)

手足の筋萎縮とは

筋肉がやせることを筋萎縮といいます。
筋肉がやせる原因は、運動神経の障害によるもの(神経原性筋萎縮)と筋肉自体の病気によるもの(筋原性筋萎縮)に大きく分けられます。

なお、病気や外傷などのために長期間にわたって安静状態が続いたり、活動性が低下したりして、筋肉を動かせない状態が続いたために筋肉がやせてくることもあります。このような萎縮は「廃用性筋萎縮」といいます。

運動神経の障害によるもの(神経原性筋萎縮)
末梢神経障害による慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)多巣性運動ニューロパチー(MMN)では、末梢神経の様々な部位に炎症が起こり、炎症によって運動神経に障害が生じて、筋萎縮があらわれることがあります。末梢神経障害によって生じる筋萎縮は神経原性筋萎縮に分類されます。

CIDPとMMNについては、「CIDP・MMNを知る」のページをご参照ください。

神経原性筋萎縮を引き起こす他の代表的な病気に、筋萎縮性側索硬化症、球脊髄性筋萎縮症、脊髄性筋萎縮症があります。

  • 筋萎縮性側索硬化症(ALS):筋肉(自分の意思で動かすことができる随意筋)を支配している神経を運動ニューロンといいます。運動ニューロンには上位と下位の2つがあり、これらの運動ニューロンが障害されると、筋力が低下して筋肉を動かしにくくなったり、筋肉がやせてきたりします。運動ニューロンが障害される病気を総称して運動ニューロン疾患と呼びますが、ALSは運動ニューロン疾患の代表的な病気です。
    ALSは上位と下位の両方の運動ニューロンが次第に壊れ、消失していく、進行性の病気です。手足(四肢)、喉、舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉などが徐々にやせていきます。
    ALSの原因として、神経の老化との関連などが考えられていますが、よくわかっていません。遺伝子の異常によって発症する家族性ALSもあります。
  • 球脊髄性筋萎縮症(SBMA):下位運動ニューロンが徐々に壊れ、消失していく、遺伝性の病気です。手足、喉、舌の筋肉の萎縮や筋力低下がみられます。筋肉の症状とは別に、女性の乳房のようにふくらむ女性化乳房がみられたり、発毛が減少したりすることがあります。
    原因は、男性ホルモン(アンドロゲン)と結合するアンドロゲン受容体というタンパク質の遺伝子の異常と考えられており、通常男性のみに発症します。
  • 脊髄性筋萎縮症(SMA):下位運動ニューロンが壊れ、消失する、進行性・遺伝性の病気です。乳児から成人まで、幅広い年齢層で発症します。
    SMAの原因は、筋肉を動かすために大切なSMNタンパク質を作るSMN1遺伝子の異常と考えられています。なお、SMN遺伝子にはSMN2遺伝子もありますが、SMN2遺伝子から作られるSMNタンパク質はわずかです。つまり、SMAでは、わずかなSMNタンパク質しかないことになります。

手足(筋肉)が動く仕組みや運動ニューロンについては、「なぜ手足の力が入らないの?」の項をご参照ください。

筋肉自体の病気によるもの(筋原性筋萎縮)
筋原性筋萎縮を引き起こす代表的な病気に、筋ジストロフィー、多発筋炎・皮膚筋炎があります。

  • 筋ジストロフィー:筋肉が壊れてしまったり(壊死)、異常な変化(変性)を起こしてしまったりする、遺伝性の病気の総称です。筋肉の構造や機能を維持するために必要なタンパク質の遺伝子に異常が生じることにより、筋肉が壊死・変性すると考えられています。
  • 多発筋炎・皮膚筋炎:自己免疫疾患の一つで、免疫系が自分の組織である筋肉や皮膚を攻撃してしまい、筋肉・皮膚に炎症を起こすことによって生じます。皮膚症状はなく、複数の筋肉に炎症が起こるものを多発筋炎、特徴的な皮膚症状を伴うものを皮膚筋炎といいます。筋萎縮の他に、筋力低下や筋肉痛、関節痛が生じたり、疲れやすくなったり(易疲労感)します。

サルコペニアとは

筋肉自体の病気や運動神経の障害がなくても、普通の生活を送っていても、加齢とともに筋肉の量は減り、筋力が低下していきます。加齢などによって全身の筋肉量が減少し、筋力又は身体機能が低下することをサルコペニアといいます。サルコペニアになると、歩く、立ち上がるなどの日常生活に支障が生じ、介護が必要になったり、転びやすくなったりします。
なお、加齢による身体機能の低下だけでなく、心理面や社会面にも影響がみられる(健康と要介護の中間の)虚弱な状態をフレイルと呼びますが、サルコペニアは、フレイルの主な要因と考えられています。

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手足の脱力(力が入らない)・筋力低下、ふるえ(振戦)、筋萎縮(筋肉のやせ)は、神経系の障害のサインです。そのため、早めに脳神経内科を受診することが大切です。
脳神経内科は、脳・脊髄、末梢神経、筋肉の病気を診る“カラダ”の病気の専門科です。“ココロ”の病気を診る科ではありません(ココロの病気の専門科は精神科・神経科、心療内科です)。脳神経内科では、詳しい神経診察を行い、カラダのどこに異常があるかをまず診断します。原因が脳・脊髄、末梢神経、筋肉の病気ではない場合には、適切な専門科を紹介してくれますので、まずは脳神経内科を受診されることをおススメします。

手足のしびれ

感覚障害とは

手足などのしびれや感覚まひは、感覚神経の障害に起因して生じることがあります。
体の外からの様々な刺激(熱い・冷たい、痛い、音、光、ニオイ、味などの感覚情報)に対して、その刺激を受けたところから末梢神経(感覚神経)、脊髄・脳までの経路のどこかに障害が生じたことによって、送られてきた情報を脳が正確に認識できない状態を感覚障害といいます。

感覚障害の種類には、異常感覚、感覚鈍麻があります。例えば、「触っている感じがわかりにくい」「熱い・冷たいがわからない」「痛みを感じにくい」などの感覚は感覚鈍麻と考えられますし、外からの刺激がないにもかかわらず自発的に生じる「ジンジン」するような異常な感じは、異常感覚と表現します。

末梢神経障害による慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)では、末梢神経の様々な部位に炎症が起こり、炎症によって感覚神経に障害が生じることがあります。

感覚障害については「末梢神経障害(ニューロパチー)とは」の項も、CIDPについては「CIDP・MMNを知る」のページもご参照ください。

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感じるということは

神経系を構成する基本単位をニューロン(神経細胞)といいます。ニューロンには、手や足などの筋肉(骨格筋)を支配している運動ニューロンの他に、感覚ニューロンなどがあります。
熱い・冷たい(温度)、痛い又は光、音、ニオイ、味といった、体の外から入る様々な刺激(感覚情報)は、皮膚、眼、耳、鼻、舌などの感覚器が受け取り、受容器と呼ばれる器官が電気信号に変えて、脊髄を通って脳に伝わり、脳(大脳の表面にある大脳皮質の知覚野)はその信号(情報)を受け取って、“熱い・冷たい”、“痛い”などと認識します。このように、感覚器からの刺激を脳に伝えるニューロンが感覚ニューロンです。
この感覚器から脳へ至る経路のどこに障害が起きても、感覚障害が起こり、しびれ、感覚まひなどが生じる可能性があります。

  • 脳の障害:脳出血、脳梗塞、脳腫瘍、多発性硬化症など
  • 脊髄の障害:外傷による脊髄損傷、多発性硬化症など
  • 末梢神経の障害:慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)といった末梢神経障害など

なお、腹痛などの内臓の痛みや、食欲、空腹感、吐き気などの内臓が感じる感覚は内臓感覚と呼ばれ、内臓に受容器があり、情報は自律神経によって伝えられます。

手足のしびれとは

しびれは日常的によく使われる言葉であり、人によって異なった状態を意味していることがあります。
例えば、手足(四肢)の力が入らない状態をしびれと表現することがありますが、これは、脱力、筋力低下又は運動まひの状態で、運動神経の障害によるものと考えられます。
一方、ビリビリ・ピリピリ・ジンジン・ジーンとしびれるのは異常感覚で、感覚神経の障害によるものとされています。

運動神経の障害については、「手足の脱力(力が入らない)」の項をご参照ください。

しびれは、感覚器から脳までの感覚が伝わる経路のどこかに障害が起こったときに生じます。また、どの部分に障害が起きているかで、原因として考えられる病気は異なります。

末梢神経障害による慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)では、末梢神経の様々な部位に炎症が起こり、炎症によって感覚神経に障害が生じて、手足のしびれが生じます。

CIDPについては、「CIDP・MMNを知る」のページをご参照ください。

一方、中枢性のしびれの原因には、脳出血・脳梗塞・脳腫瘍、交通事故などで起こる脊髄損傷、多発性硬化症など、様々なものがあります。

  • 多発性硬化症:本来自己と異なるもの(異物)を排除する役割を持つ免疫系が、自分自身の組織であるミエリン(ニューロン[神経細胞]の一部)を“敵”とみなして攻撃し、ミエリンが脱落(脱髄)してしまうことで発症します。そのため、自己免疫疾患であり、脱髄性疾患にも分類されます。
    障害される神経は中枢神経(脳や脊髄)です。中枢神経に含まれる視神経が障害されると視力が低下したり、視野が欠けたりします。また、運動障害・感覚障害によって、振戦(ふるえ)、歩行障害、運動まひ、しびれなどが生じます。
    多発性硬化症と同じ自己免疫疾患であり、脱髄性疾患に分類される病気に、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)多巣性運動ニューロパチー(MMN)があります。あらわれる症状は似ていますが、多発性硬化症と異なり、これらの病気で障害されるのは末梢神経です。

CIDPとMMNについては「CIDP・MMNを知る」のページを、多発性硬化症については「CIDP・MMNを知る」の「CIDP・MMNと間違いやすい病気は?」のページもご参照ください。

手足のまひ

手足のまひとは

まひには、運動まひと感覚まひがあります。
神経系又は筋肉自体の病気によって、手足(四肢)などの筋肉(骨格筋)を自分の意思でうまく動かすことができなくなる状態を運動まひといいます。
筋肉を意識的に(随意的に)動かそうとするとき、正常な場合は、脳が出した指令が脊髄に伝わり、末梢神経を経て筋肉が収縮して手や足などが動きます。脳・脊髄から筋肉に至る経路のどこかに障害が生じると、随意的な運動機能が低下又は消失します。この状態が運動まひです。

運動まひ・運動障害については、「手足の脱力(力が入らない)」の項もご参照ください。

運動まひが起こるのは、手足など体の一部であることもあれば、体の全体に及ぶこともあります。
また、体の一部又は全体を全く動かせなくなること(完全まひ)もあれば、少し動かすことができること(不全まひ)もあります。

まひには、片まひ、単まひ、対まひ、四肢まひなどの種類があります。

  • 片まひ:体の片側(どちらか片方の手足)にまひが起こる状態。
    脳梗塞や脳出血で起こることが多いタイプです。
    体の片側のまひに加えて、反対側の顔にまひを伴う状態を交叉性まひ(交代性まひ)といいます。
  • 単まひ:片手又は片足だけ(4本ある手足の一本だけ)にまひが起こる状態。
  • 対まひ:両足にまひが起こる状態。
  • 四肢まひ:手足すべてにまひが起こる状態。

一方、感覚まひは、感覚が鈍くなる・感覚がなくなってしまうことをいいます。
感覚まひは、感覚が伝わる経路のどこかに障害が起こったときに生じることがあります。
感覚まひが起こると、温度感覚、触覚などの感覚がなくなったり、痛みを感じなくなったりします。また、手や足がビリビリしびれるようになったりします。

感覚まひについては、「感覚障害とは」の項もご参照ください。

末梢神経障害による慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)多巣性運動ニューロパチー(MMN)では、末梢神経の様々な部位に炎症が起こり、炎症によって運動神経や感覚神経に障害が生じて、手足のまひが生じることがあります。

CIDPとMMNについては、「CIDP・MMNを知る」のページをご参照ください。

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手足のしびれやまひは、神経系の障害の重要なサインです。直ちに脳神経内科を受診することが大切です。
脳神経内科は、脳・脊髄、末梢神経、筋肉の病気を診る“カラダ”の病気の専門科で、脳神経外科と整形外科領域に対応する内科となります。脳神経内科でないと診断できない疾患が数多くありますので、他科で診断がついていない場合や十分な治療効果がみられていない場合には、お近くの脳神経内科を受診することをおススメします。

監修: 山口大学医学部
神経・筋難病治療学講座 教授
血液脳神経関門先進病態創薬研究講座 研究代表
竹下 幸男 先生 (公開日:2024年5月)