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CIDP・MMNの治療 CIDP・MMNはどのように治療するの?

CIDP(慢性炎症性脱髄性多発神経炎)の治療

CIDPの治療には、主に副腎皮質ステロイド薬、免疫グロブリン療法及び血漿浄化療法が用いられています。これらの治療法から、患者さんの症状・重症度や、CIDPの他にどのような病気にかかっているか(合併症)などを総合的に判断して、患者さんに合った治療法が選択されます。

CIDPの治療は、発症時・再発時に行う治療(寛解導入療法)と、症状の改善を維持するために行う維持療法があります。加えて、補助的な治療を行うこともあります。

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CIDPに対しては、発症の早期に治療を開始した場合ほど、治療効果が良好であり、そのためには、早期に正しく診断することが大切であるとされています。
CIDP・MMNは脳神経内科領域の病気です。気になる症状があったら、速やかに適切な治療を開始できるよう、脳神経内科を受診して、正しい診断を受けましょう。
なお、発症から長期間経ってから治療を開始したからといって効果が期待できないということではありません。
また、治療の効果には個人差があります。

CIDP・MMNの症状については、「こんな症状はありませんか?」と、「CIDP・MMNを知る」の「CIDP・MMNの発症の特徴は?どのような症状が生じるの?」のページをご参照ください。

発症時・再発時に行う治療

CIDPに対する寛解導入療法の目的は、自己免疫によってミエリン(髄鞘)に起こった炎症を抑えること(免疫抑制)であり、軸索に障害が及ばないようにすること(予防)です。

神経細胞は、他の神経細胞に信号を送る役割を持つ軸索などの部分から構成され、軸索はミエリンという脂質に富んだ物質がまわりをおおって保護しています。

画像:神経細胞

CIDPの寛解導入療法では、副腎皮質ステロイド薬、免疫グロブリン療法及び血漿浄化療法のいずれかが用いられます。最初に選択した治療法で効果が低い又はみられない場合は、他の2種類の治療法のいずれかに切り替えて治療をしていきます。
治療法を切り替えても効果が低い又はみられない場合は、補助的な治療として免疫抑制薬が用いられることがあります。

CIDPの原因については、「CIDP・MMNを知る」の「CIDP・MMNの原因は?」のページをご参照ください。

症状の改善を維持するための維持療法

寛解導入療法で良好な効果が得られることがあります。一方、CIDPは、治療で症状が改善しても再発することもあり、再発を繰り返すことで神経が傷つけられ、障害が軸索に及ぶことがあります。そのため、寛解導入療法によって得られた症状の改善を維持すること、そして、軸索への障害を未然に防いで末梢神経を保護することが大切です。
そこで、行われるのが維持療法です。

維持療法では、副腎皮質ステロイド薬、免疫グロブリン療法又は血漿浄化療法の単独又は併用で、長期間にわたって定期的に(反復的に)治療を継続していきます。

CIDPの治療で用いられる3種類の治療法

CIDPの治療に用いられる副腎皮質ステロイド薬、免疫グロブリン療法及び血漿浄化療法には、それぞれに特徴があります。

副腎皮質ステロイド薬

私たちの体ではいろいろなホルモンが作られ、働いています。その中の一つに副腎皮質で作られるステロイドホルモンがあります。そのステロイドホルモンを薬として使用したものが副腎皮質ステロイド薬です。
副腎皮質ステロイド薬は、炎症やアレルギーを抑えたり、免疫を抑制したりする働きがあり、自己免疫疾患を含め、様々な病気の治療に使われています。
CIDPは、その発症に炎症や免疫の異常が関係している自己免疫疾患であり、そのため、CIDPの治療にも副腎皮質ステロイド薬が用いられます。

副腎は腎臓の上にある小さな臓器です。

治療の仕方

経口ステロイド薬:通常、飲み薬として服用します。
ステロイドパルス療法:症状が重いときや急に悪くなったときには、炎症を強力に抑制するため、大量の副腎皮質ステロイドを点滴静注することがあります。

利点・欠点

通常は飲み薬として投与する薬のため、簡便に治療が行えます。
副腎皮質ステロイド薬はいろいろな働きを持っていますし、重症な場合にも使用することもできます。また、症状が改善した後に再発することが少ないことも利点として挙げられます。
一方、他の2つの治療法に比べて、飲み薬は効果の発揮が遅いという欠点があります。

留意点

長期間使用した場合にあらわれる副作用が心配されます。
様々な副作用が生じることがありますが、減量・中止したり、再開したりして、症状の改善と副作用の発現とのバランスをみながら治療していきます。

免疫グロブリン療法

免疫グロブリンは、血液中や組織液中に存在するタンパク質で、ウイルス、細菌などの異物が体内に入ってきたときに攻撃・排除するように働く「抗体」の機能を持っています。

免疫グロブリン製剤は、健康なヒトから採取した血液から赤血球などの血球成分を取り除き、得られた血漿から必要な成分のみを精製し、濃度を高めて製剤化したものです。自己免疫疾患、感染症などの治療に用いられています。
CIDPに対しては、感染症を予防するためではなく、免疫を調整する働きを期待して用いられます。

免疫グロブリン製剤は血漿を原料として製造されるため、原料の血漿を通じて伝わったウイルス等によって感染症を起こしてしまうリスクがないとはいえません。そのため、免疫グロブリン製剤を製造するときには、製造の各段階で安全対策が施されています。

画像:免疫グロブリン療法
画像:免疫グロブリン製剤を製造するときには、製造の各段階で安全対策が施されています。

治療の仕方

寛解導入療法には点滴静注用の免疫グロブリン製剤が、維持療法には点滴静注用及び皮下注用の免疫グロブリン製剤が用いられます。

利点・欠点

経口ステロイド薬と比べて効果の発揮が速いこと、点滴静注又は皮下注なので、血漿浄化療法と比べて医療機関を選ぶことなく簡便に実施できることが利点として挙げられます。
注意点は、血漿を原料として製造するため、未知のウイルス等による感染の可能性が全くないとはいえないことです。ただし、製造の各段階で安全対策が施されています。

留意点

特に高齢者に用いるときには、血栓塞栓症の発現に注意が必要とされています。

血栓塞栓症:血栓によって血管がつまる(血栓症)、血栓が血液の流れに乗って別の血管につまる(塞栓症)

血漿浄化療法

患者さんから血液を採取し、血漿分離器などを用いて血球成分(赤血球、白血球及び血小板)と血漿成分(血球以外)を分け、血漿から病気の原因となる物質(病因物質)を取り除く治療法です。
CIDPでは、「単純血漿交換法」「二重膜ろ過法」「血漿吸着法」が用いられています。

  • 単純血漿交換法:血漿分離器を用いて血球成分と血漿成分に分けたのち、病因物質が含まれる血漿成分を取り除き、替わりの血漿成分(健康なヒトから得た新鮮な血漿など)を血球成分とともに体に戻す治療法です。
  • 二重膜ろ過法:血漿分離器を用いて血球成分と血漿成分に分けたのち、血漿成分をさらに血漿成分分画器にかけて病因物質を除去する治療法です。病因物質を含まない成分(体に有用なアルブミンというタンパク質を含む)を、血球成分とともに体に戻します。
  • 血漿吸着法:血漿分離器を用いて血球成分と血漿成分に分けたのち、血漿を吸着器に通して病因物質を吸着させて除去する治療法です。吸着後の血漿は、血球成分とともに体に戻します。
画像:血漿浄化療法

治療の仕方

太い静脈から血液を取り出して、処理をしてから体に戻します。

利点・欠点

3種類の治療法の中で一番効果の発揮が速いため、進行が速い患者さんなどにおいて、早期に回復を期待したい場合にも用いられます。
特殊な装置が必要なため、実施できる医療機関が限られます。また、専門家による実施が望ましいとされています。

留意点

心臓、動脈・静脈など(循環器系)の自律神経障害がある患者さんに使用する際には注意が必要とされています。

MMN(多巣性運動ニューロパチー)の治療

MMNに対しては、免疫グロブリン療法が用いられます。
免疫グロブリン療法によって、長期間にわたって症状の改善がみられることがありますが、効果が一時的であったり、効果がみられなかったりすることもあります。
維持療法が必要な場合は、治療の間隔を短くするなどの工夫をしながら、免疫グロブリン療法を継続的に使用していきます。

免疫グロブリン療法については、「CIDPの治療」の項をご確認ください。

もっと知る

CIDPの治療で用いられる副腎皮質ステロイド薬や血漿浄化療法は、MMNには効果がなく、副腎皮質ステロイド薬はむしろ症状を悪化させることがあるとされています。
MMNは、CIDPと似ている点が多い病気ですが、副腎皮質ステロイド薬などに対する治療効果の点で大きく異なります。

MMNやCIDPの発症の特徴については、「CIDP・MMNを知る」の「CIDP・MMNの発症の特徴は?どのような症状が生じるの?」のページをご参照ください。

監修: 近畿大学医学部 脳神経内科学教室 講師
桑原 基 先生 (公開日:2024年5月)