ゴーシェ病はライソゾーム病?
ゴーシェ病はライソゾーム病?
監修:東京慈恵会医科大学 井田 博幸 先生
ライソゾーム病は細胞内に過剰に物質がたまる病気
細胞内には膜で区切られた小部屋がいくつもあります。不要になった物質を分解する小部屋をライソゾームと言います。ライソゾームではさまざまな酵素が働いていますが、それらの酵素の働きが悪いと、本来酵素で分解される物質が細胞内に過剰にたまり、細胞の働きを障害します。それがライソゾーム病です。
ライソゾーム病の種類は60種類以上1)
ライソゾーム病は、酵素の数だけ存在し、現在、約60種類が知られています。ゴーシェ病、ファブリー病、ポンペ病、ムコ多糖症などがよく知られています。
ライソゾーム病の種類 | 主な症状 | 細胞内にたまる物質 | 働きが悪い酵素 |
---|---|---|---|
ゴーシェ病 | 肝臓や脾臓が腫れて大きくなる 貧血になる 血が止まりにくい 骨が痛む けいれん |
グルコセレブロシド (グルコシルセラミド) |
グルコセレブロシダーゼ |
ファブリー病 | 手足の痛み 汗が出にくい 発疹(血管腫) |
セラミドトリヘキソシド (グロボトリアオシルセラミド) |
αガラクトシダーゼ |
ポンペ病 | 首がすわらない 筋力が弱い |
グリコーゲン | 酸性αグルコシダーゼ |
ムコ多糖症I型 | 関節のこわばり 骨の変形 発達の遅れ |
ヘパラン硫酸 デルマタン硫酸 |
α-L-イズロニダーゼ |
ムコ多糖症II型 | 関節のこわばり 骨の変形 発達の遅れ |
ヘパラン硫酸 デルマタン硫酸 |
イズロン酸-2-スルファターゼ |
ムコ多糖症III (A、B、C、D)型 |
発達の遅れ 多動 攻撃的な性格 |
ヘパラン硫酸 | A型:ヘパラン-N-スルファターゼ B型:α-N-アセチルグルコサミニダーゼ C型:アセチルCoAα-グルコサミニド-N-アセチルトランスフェラーゼ D型:N-アセチルグルコサミン-6-スルファターゼ |
ムコ多糖症IV (A、B)型 | 関節のこわばり 骨の変形 |
ケラタン硫酸 | A型:N-アセチルガラクトサミン-6-スルファターゼ
B型:βガラクトシダーゼ |
ムコ多糖症VI型 | 関節のこわばり 骨の変形 |
デルマタン硫酸 | N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ |
ムコ多糖症VII型 | 関節のこわばり 骨の変形 |
ヘパラン硫酸 デルマタン硫酸 コンドロイチン硫酸 |
β-グルクロニダーゼ |
井田博幸 編. ライソゾーム病―最新の病態、診断、治療の進歩―. 診断と治療社. p168-176, 211-230, 265-273, 2023. より作表
ライソゾーム病の原因は「遺伝子の変異」
細胞内で、酵素の働きが悪くなるのは、遺伝子の変異が原因です。「遺伝子」はヒトをつくる様々なものの「設計図」にたとえられます。酵素に関する設計図が、なんらかの原因で変異をおこすと、酵素が正常な働きを失ったり、酵素自体が作られなくなったりします。
親から子へ遺伝子の変異が伝わる
遺伝子は染色体という入れ物に収められており、染色体には常染色体と性染色体があります。常染色体は22種類あり、1〜22まで番号がついています。一方、性染色体は2種類あり、番号ではなく、X染色体とY染色体と呼ばれます。常染色体は男女ともに同じものを2本ずつ(22種類×2本)、全部で44本あり、性染色体は、女性はX染色体を2本、男性はX染色体とY染色体を1本ずつ持っています。合計すると、遺伝子(設計図)の入った染色体の数は、常染色体44本と性染色体2本(女性はXX、男性はXY)の46本になります。
東京女子医科大学 附属遺伝子医療センター
遺伝子についてサイト(http://www.twmu.ac.jp/IMG/about-gene.html)(2024年2月現在)より作図
子は父親と母親から23種類の染色体をそれぞれ1本ずつ受け取り、染色体の数は親と同じ46本になります。この時、父親からX染色体を受け取るとその子は女性に、Y染色体を受け取るとその子は男性になります。
東京女子医科大学 附属遺伝子医療センター
遺伝子についてサイト(http://www.twmu.ac.jp/IMG/about-gene.html)(2024年2月現在)より作図
子は親から染色体に入った遺伝子を受け取ることで、親から子に、ヒトとしての特徴が受け継がれますし、遺伝子の変異も、親から子に受け継がれることになります。
遺伝子に変異があっても病気になる場合とならない場合がある
遺伝子(設計図)には顕性遺伝するものと、潜性遺伝するものがあります。常染色体の2セットある遺伝子のどちらかに変異があると病気になるのが「顕性遺伝」、常染色体の2セットある遺伝子の両方に変異がないと病気にならないのが「潜性遺伝」です。したがって、潜性遺伝では片方のみの遺伝子に変異があるのみでは、病気にはなりません。このような遺伝子の状態の方を保因者と呼びます。
性染色体のX染色体に変異がある場合、男性では性染色体はXYですので、X染色体の遺伝子に変異があると、必ず病気になってしまいます。これに対し女性では性染色体はXXですので、変異がないX染色体により機能が補填されるため病気にはなりません(ファブリー病を除く)。
ライソゾーム病には、常染色体潜性遺伝とX連鎖潜性遺伝の場合があります。遺伝形式は病気によってそれぞれ異なります。
※常染色体潜性遺伝の疾患:ゴーシェ病、ポンペ病、ムコ多糖症(Ⅱ型を除く)
※X連鎖潜性遺伝の疾患:ファブリー病*、ムコ多糖症Ⅱ型
*ファブリー病の遺伝形式はX連鎖潜性遺伝ですが、保因者であっても症状が現れた女性が多数報告されています2)。このような例を症候性ヘテロ接合体と呼びます。
難病に指定され医療費の補助が受けられる
ライソゾーム病は非常にまれな病気で、その発症頻度は新生児7,700人に1人と言われています3)。治療が難しく、費用は高額であるため、指定難病、かつ小児慢性特定疾患に指定されており、国や地方自治体から医療費の補助(医療助成制度)が受けられます。
※ゴーシェ病は、33万人に1人の割合と言われています4)。
文献
- 1.難病情報センター https://www.nanbyou.or.jp/entry/4061(2024年2月現在)
- 2.井田博幸 編. ライソゾーム病―最新の病態、診断、治療の進歩―. 診断と治療社. p71. 2023.
- 3.Konstantin M, et al. Orphanet J Rare Dis. 2015; 10: 46.
- 4.Owada MY, et al. J Jpn Pediatr Soc. 2000; 104: 717-722.