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ゴーシェテラスweb座談会
ゴーシェテラスweb座談会
2020年10月29日
参加者:
古賀晃弘さん(日本ゴーシェ病の会 会長)
新井直美さん(日本ゴーシェ病の会 会員)
濱村美砂子(武田薬品工業株式会社)
司会:
桾澤貴史(武田薬品工業株式会社)
はじめに
司会:本日はゴーシェ病の早期診断と早期治療、内部疾患としての悩みや課題、さらに日本ゴーシェ病の会、ならびに武田薬品工業(以下、武田薬品)の取り組みについて伺っていきたいと考えております。
それではまず、皆さんの自己紹介をお願いできますか。
古賀さん:日本ゴーシェ病の会、会長の古賀と申します。私自身は患者でなく、わが子がⅡ型のゴーシェ病を患っており、いわゆる医療的ケア児です。
日本ゴーシェ病の会は、約50の家族で構成される患者会です。設立は1980年代と歴史があり、最初は2家族でスタートしたそうです。日本国内の患者数は推定120名程度ときわめて少なく、同じ立場の患者さん・ご家族と悩みや不安を共有することが難しい環境であったことから、①ゴーシェ病の正しい知識を得て、明るい療養生活が送れるように、会員相互の情報交換ならびに交流を図る、②互いに苦痛を支え合い、精神的な支えとなる場を提供する、③ゴーシェ病を広く社会に啓発し、その理解と協力のもとに医療福祉の増進を図る、という3つの目標を掲げ、活動が始まったと聞いています。また、発足当時は酵素補充療法の治療薬が日本で承認されていなかったこともあり、こうした薬剤の国内承認に向けた活動も大きな目的だったそうです。
新井さん:日本ゴーシェ病の会の会員で、Ⅰ型患者の新井と申します。3歳の頃に診断を受けましたが、当時は治療薬がなく、19歳頃から点滴による治療を開始しました。いま現在、病状は安定していますが、酵素補充療法を開始する前に関節などに炎症反応が起きてしまい、それが改善しない状況が続いているため、動きに制限のある日常を過ごしています。
濱村さん:武田薬品の濱村と申します。武田薬品は、2019年4月、シャイアー社の事業統合を機に新たに希少疾患にフォーカスしたビジネスユニットを立ち上げました。私はこのビジネスユニットのヘッドとして携わり始めて1年半余りが経ちましたが、希少疾患の奥深さに気づかされ、また、患者さんを取り巻くたくさんの課題が残されていることを感じています。
なお、この希少疾患領域は、弊社における5つの重点領域の1つに位置づけられていますが、希少疾患に関して弊社はまだ初心者です。そのため、これからもっと患者さんのことを理解して、少しでも貢献できるような企業になりたいと考えております。
患者会、製薬企業それぞれの疾患啓発活動に関する取り組み
濱村さん:早速ですが、患者会の取り組みの中でも特に疾患啓発活動についてお教えいただけますか。というのも、「疾患啓発」という言葉のイメージは湧くのですが、実際には興味を持っている方もいれば、持っていない方もいらっしゃるので、とても難しいことではないかと思っています。
その点を踏まえ、患者会としてはどのような取り組みをされているのでしょうか。
古賀さん:私は啓発を2つの軸で捉えています。1つは当事者(患者やその家族)となった人たちに対して正しい知識を身につけてもらうこと。そして、もう1つは患者関係者ではない人たちに、「こんな病気の患者さんがいる」と理解してもらうことだと考えています。当事者向けとしては、会員登録を希望される方に、ホームページからEメールでご連絡いただく流れを作っています。また、会の中で2つのSNSグループとして、ゴーシェ病成人(Ⅰ・Ⅲ)型のグループと、親御さんたちに参加いただくゴーシェ病Ⅱ型のグループを作り、気軽にやり取りできるような体制を整えています。なお、交流会を兼ねた勉強会を年1回開催しています。勉強会では顧問医師の先生方をお招きして最新の情報をご講義いただき、交流会では患者・家族同士で情報交換を行っています。
一方、患者関係者ではない、ゴーシェ病を知らない人向けには、疾患名を印字したTシャツやタオルを作って身近な人たちに配ったり、われわれ自身が使ったりして、周囲の目に触れる機会を増やすようにしています。加えて、「こんな病気の患者さんがいて、こういう感じで困っている」というメッセージをつけた動画を作り、YouTubeで公開しています。
濱村さん:こうした啓発活動の重要性については、どのように捉えていますか。
古賀さん:ゴーシェ病は稀な病気なので、見つかりづらいということがあります。現在は治療薬がありますので、早く診断がついて、早い段階で治療薬を使いたいと考えるのは当然のことだと思います。当会でⅡ型患者さんの親御さん向けにアンケートを行ったところ、10名の結果ではありますが、全員が“出生時にゴーシェ病に関する遺伝子スクリーニング検査を実施すべき”と回答されました。つまり、病気のことが何も分からないまま過ごすのは本当にストレスですので、そうした期間は短ければ短いほどいいと望んでいることが分かります。こうしたことから、早期診断や早期治療はとても重要であると考えるので、特に医療関係者の皆さんに向けた啓発活動を強化する必要があると思っています。
そして、このような治療面に関することだけでなく、疾患自体の認知度を社会的に広めることも重要です。ゴーシェ病は病型によって重症度がさまざまで、たとえば重度の寝たきりの幼児・小児や、中度神経症状がある方など、若くしてハンディキャップを背負った方々がいます。ゴーシェ病に限ったことではありませんが、特にこうしたハンディキャップを抱えた幼児・小児・若年患者の居場所が社会に足りない状況ですので、理解者が一人でも増えて少しでも環境が改善していけばいいと思っています。
さらに、新井さんのようなⅠ型の患者の中には、一見病気とは分からないような方もいらっしゃって、「2週に1回治療が必要で学校・会社を休まなければなりません」とか、「骨の痛みが強くて今日は登校・出社できません」と伝えても、「何を甘えているんだ」と言われてしまうことがあるそうです。こうした誤解や偏見がなくなるよう、病気のことを正しく伝える活動が必要であると考えています。
新井さん:私が診断を受けた3歳の頃は、何の治療薬もない時代でした。医師から、難病で治療法がないと聞かされた親のショックは計り知れず、とても辛かったと思います。でも、いまは治療法があるという情報が得られるだけで、救いの手が差し伸べられたという感覚になるのではないでしょうか。つまり、早く診断を受けることで治療の道が開けるということが患者さん・ご家族に確実に届くのはとても大切で、そう考えると早期診断はもっとも重要であると思っています。
濱村さん:ありがとうございます。こうした声を伺うと、われわれ製薬企業としては、1日でも早く薬を届けなければならないと思います。
古賀さん:では、武田薬品さんとして、ゴーシェ病患者のためにこれまで取り組まれてきた啓発活動や、今後の活動を教えていただけますか。
濱村さん:はい。私たちにも社内向け、社外向けといった2つの活動があります。まず、社内向けとしては、“世界ゴーシェ病の日”にあわせた従業員向けのセミナーを開催しています。今年はコロナ禍ということもあり、新井さんにお話いただいたビデオなどを活用したwebセミナーを行い、従業員の理解向上に努めました。
一方、社外向けとしては、必ずしも皆さんが希少疾患のことを積極的に知りたいというアンテナを持っているわけではないので、メディアの活用がやはり効果的ではないかと思います。具体的には、専門医の先生や患者さんにご協力いただきながら新聞などへのゴーシェ病に関する情報提供を行い、いわば草の根運動的な活動を進めています。また、今後強化していきたいのは、弊社だけで啓発活動をするのでなく、競合企業、さらには異業種の企業が2社、3社と加わって一緒に活動するということです。社会への影響力がより大きくなりますし、より中立的で透明性の高い情報提供につながることが示唆されますので、こうした活動の輪を広げていこうと考えています。
古賀さん:“ゴーシェ病”といった聞き慣れない片仮名の病名を知って欲しいと言っても無理があると思いますので、まずは「遺伝性の病気」という見た目には分からない病気が存在することへの理解、認識が広く浸透することを望んでいます。
新井さん:世間一般のイメージとしては、健康な子供が生まれるという意識しかないと思うのですが、誰にでも起こりうることだということを知ってもらうことは大切ですよね。
濱村さん:そうですね。予測できないことが起こりうることを広く理解してもらう必要があると思います。
古賀さん:そうした状況を受け入れる社会であって欲しいですし、私はそんな社会を作っていくうえで、できる努力はどんなことだろうと考え、この活動に取り組んでいます。
日常生活における問題と解決に欠かせない課題
濱村さん:新井さんに教えていただきたいことがあります。先ほど古賀さんが言われていたように、Ⅰ型の患者さんはパッと見の印象では周りに気づかれにくく、内部疾患としての悩みやご苦労があるとのことでした。そういった点に関して、差し支えなければエピソードを交えてお話いただけますでしょうか。
新井さん:私の場合は、3歳の診断時に股関節の壊死がみられ、装具を着けていたため、周囲の視線を感じながらの療養生活も経験しました。
現在は、ほかのⅠ型患者さんと同様、関節に症状を抱えているものの、杖をつくまでではありませんが、生活していくうえで一番困るのがトイレの問題です。ここ最近、“だれでもトイレ”が増えてきましたが、 “だれでもトイレ”に出入りするときに、「何の障害も抱えてなさそうなのに」という視線を感じることが多々あります。
ヘルプマークが普及してきて、社会的に認知されつつありますが、そんな状況にもかかわらず、“だれでもトイレ”の出入り口にヘルプマークはついていません。今後、“だれでもトイレ”にもマークがつくようになれば、不審な目で見られることも減っていくのではないかと思っています。
濱村さん:そうですね。ヘルプマークについては、弊社のコーポレートホームページでも普及啓発を実施しています。加えて、一般・患者さん向けの疾患啓発サイトや、従業員の家族を職場に招くファミリーデーにおいてもヘルプマークの啓発に取り組んでいます。ただ、それでもやらなければならないことはまだまだ残っていると思いますので、周知活動をより一層進めていきたいと考えています。
新型コロナウイルス感染症が及ぼす患者会の活動への影響、通院や生活への影響
司会:ありがとうございます。ここで話題を変えまして、いま新型コロナウイルス感染症の流行が収まらない中で、皆さんの活動にさまざまな影響がでてきていると思います。そのあたりの実情をお聞かせいただけますか。
古賀さん:1つは患者会の活動への影響があります。どのようなイベントも同じだと思いますが、対面でのやり取りが難しくなったので、年1回開催してきた交流会を見送りました。勉強会についてはオンラインで開催し、これまでの参加数と変わらない13家族が参加されました。ただ、リモートのせいか、移動が難しい、わが家のように寝たきりの子供を抱える親御さんの参加が多数を占めた点は、これまでの構成と大きく異なりました。通常開催では参加の難しい方々も最新の情報を得たいというニーズを持たれていることを改めて認識でき、とても大きな収穫になりました。
もう1つの影響としては、基礎疾患を抱えている人たちにとって、感染に対するリスクの考え方は一般の方々より敏感なケースが多いです。また、酵素補充療法は2週に1回の通院・点滴が必要なため、通院が怖いとか、内服薬があれば切り替えたいといった意見もあります。これらを踏まえると、在宅での治療の導入が進んでいけば、患者さんにとって大きなメリットになるのではないかと思います。
新井さん:おっしゃるとおりです。私は季節の変わり目や、ちょっとしたことで体調が悪くなって風邪を引いたりしますので、コロナ禍では「もしかして罹ってしまった?」と不安になることもあります。そして、ふだん通っている大学病院に行くことも、「本当に大丈夫だろうか」と緊張しつつ通院しています。
先生をはじめとする医療スタッフの皆さんも、どのような対応が最善であるかの判断に悩まれている様子が窺えます。
濱村さん:患者さんはもちろん、先生や看護師さんも互いに様子を見ながら試行錯誤して、これからの医療のあり方を考えておられるというのが実情ということですね。
古賀さん:そうですね。一方、企業活動にはどのような影響が出ていますか。
濱村さん:MR(医薬情報担当者)については、訪問を禁止された施設もあり、対面の機会を制限されてしまったこともあり、先生から患者さんの様子を伺う機会が減ってしまいました。ただ、それも一時的で、その後web会議システムを介したやり取りが可能となり、対面訪問の制限が解除された施設もでてきました。今後は、Eメールも含めた非対面のコミュニケーションをうまく組み合わせた対応を取り入れ、患者さんのお役に立てるような情報提供を以前にも増して進めていこうと考えているところです。
患者会と企業との協働による疾患啓発活動や将来の構想
司会:ありがとうございました。では、今年の“世界ゴーシェ病の日”における患者会の取り組みについて、もう少しお話を伺いたいと思います。
古賀さん:先ほどお話したように、勉強会はオンラインで開催しましたので、その内容は会報にまとめたうえで会員さんと共有しようと思っています。また、啓発活動としては、今年は疾患名を入れたタオルを制作し、会員さんへ配布しました。
ただ、海外の団体と違って専従で会の活動をしている方はおらず、私を含め、皆さん仕事を持ちながら運営にあたっているのが実情です。つまり、皆さんがボランティアで活動しているので、毎年の企画運営にはとても苦労しています。そうした中で、疾患啓発活動について、武田薬品さんにご協力いただけることは本当にありがたいと思っています。
ちなみに、武田薬品さんは、“レアディジーズデー(世界希少・難治性疾患の日:RDD)”に協賛されていますが、希少疾患との関わりや将来の構想があればお教えいただけますか。
濱村さん:はい。たとえば、希少疾患の社会制度などを含めた患者さんを取り巻く環境は、欧米と比べて全般的に不十分であると言わざるを得ません。そのため、私たちがサポートできる点はまだあると考え、希少疾患全体を見渡したときに何が課題で、何が根本的な原因であるかといった点を「日本における希少疾患の課題 ~希少疾患患者を支えるエコシステムの共創に向けて~」(以下、白書)(2020年1月発行)にまとめ、まずは一人でも多くの方に実情を知っていただきたいと考えています。
そして、厚生労働省、PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)、AMED(独立行政法人 日本医療研究開発機構)、患者団体、われわれが訪問している医療機関の医療従事者など、多方面の方々とお話する中で、それぞれ役割が異なる立場で互いに影響力を及ぼし合いながら協働・協業することが、患者さんを取り巻く環境の改善に重要であることを強く感じるようになっています。また、白書は第1版で終わるのではなく、今後、ほかの企業と一緒に第2版を作成することでより多くの方々に見ていただき、課題の解決につなげていければと考えています。
古賀さん:白書によって、包括的で高いレベルの知識を持たれる方々の支援が増えることは、本当に素晴らしいことだと思います。
新井さん:海外の状況などは自分で知ることができないので、白書という形で情報を得られるのは、患者の立場からもよいきっかけになり、とても参考になると思います。
おわりに 〜製薬企業に対する要望と社員へのメッセージ〜
司会:最後に古賀さん、新井さんより、製薬企業に対する要望や社員へのメッセージをお願いいたします。
古賀さん:病気や治療を理解しているということと、それを受け入れることは別問題という視点があることを認識してもらえたらと思います。治癒しない病気の診断を受けることは大きなショックであり、病気や対症療法と向き合うのには精神面での助けが必要になることもあると考えていただけたらありがたいです。「診断された=治療が開始される」と事象としてはシンプルですが実際の受療行動までの精神的過程はシンプルではないです。
そして、患者さんご自身が人前で病気のことを自ら語るということも勇気のいること、ハードルのあることなので、その点についても少しでも理解してもらえたらと思います。
また、最近は多様性を受け入れるダイバーシティが話題ですが、障害があるとか、遺伝性の病気があるとか、定期的な治療が必要な人がいるとか、「マイノリティ」にはさまざまな要素があることについても社内の研修などで取り上げていただけるとありがたいです。
新井さん:おっしゃるとおりです。一人の人間としての生き方を認め合える社会でなければいけないと思います。障害があっても、病気があっても、それが当たり前の世の中になっていって欲しいと強く願っています。
古賀さん:患者は数でもデータでも市場でもなく、従業員の皆さんと同じ人間です。皆さんとまったく同じで、生活があって悩みがあって、それにプラスして治療があるというだけなのです。「もしかしたら自分も遺伝性の病気に関わっていたかも」という想いを、心の片隅に留めていただければありがたいです。
なお、製薬企業の方々のお力によって、このようなコロナ禍においても治療薬を安定して供給いただけることに、患者・家族は本当に感謝しております。会を代表してお礼申し上げます。
新井さん:私たち患者は、医師と話をする機会はあっても、製薬企業の方との交流や、それによって何かが変わるといった考えを持つことはなかなかありません。しかし、患者会の活動によって、私たち自身も声を上げてもいいんだということを知れましたし、企業の方々も同じ人間なのだから、そこで互いを知れば何かが変わるかもしれない、次の段階に進めるんじゃないかという希望を新たに持つことができました。
患者のため、家族のために治療薬を供給していただけているんだということに私自身も気づきました。これからも、薬剤の供給とともに、疾患啓発活動を続けて欲しいですし、こうした時間を作っていただいたことに感謝しています。
濱村さん:われわれ製薬企業は、新しい治療薬の開発に取り組み、そしてお届けすることが重要な役割だと考えています。ただ、それだけで終わってはいけないと思いますし、企業に求められていること、やるべきことについても、視野を広げていく必要があると思っています。
これからも皆さんと意見交換できる機会を作りたいと考えていますし、一緒に手を取り合いながら一人一人の患者さんが少しでも安全で幸せに過ごしていただけるような社会を目指していけたらと思います。本日はどうもありがとうございました。
古賀さん:こちらこそありがとうございました。
新井さん:ありがとうございました。
司会:古賀さん、新井さんからお伺いしたご意見を踏まえ、明日からの活動につなげていかなければならないと、あらためて感じました。皆さん、本日は本当にありがとうございました。