発作時の対応について

てんかん発作は突然始まることが多く、またその症状はお子さんによりさまざまなため、発作が起こると、ご家族や周囲の方は驚いたり、とまどったりすることもあるかもしれません。さらに、発作はいつどこで起こるかを予想できないこともあり、発作時の対応については常日頃から大きな不安を感じている方もいらっしゃるでしょう。

しかし、ご家族や周囲の方が発作に関する正しい知識をもち、あらかじめ主治医から受けた注意点を守って冷静に対応することができれば、お子さんの日常生活を過度に制限する必要はありません。ここでは、発作が起こった場合に適切な対応ができるよう、ご家族や周囲の方の心構えや具体的な対処法について紹介します。

発作時の基本的な対応

まずは、あせらず落ち着くこと

発作は一般的には5分以内に自然に止まることが多いとされています。ですから、まずはあせらず落ち着くように心がけましょう。また、ひとりですべてを対応しようとせず、近くに人がいる時には助けを求めてください。ただし、人が多く集まる学校などでは、大声を出して人だかりを作ったり、過度にさわいで周囲の人をあわてさせたりするようなことはせず、あくまで冷静な対応を心がけてください。

可能な時は、発作が始まった時間やその時の様子、発作中の様子をよく観察して記録しておくと、病院を受診した時に正確に発作の状況を伝えられ、正しい処置にスムーズに移行できます。スマートフォンの動画撮影機能を使って記録すると、なおよいです。

状況を確認し、周囲の危険を取り除く

発作で転倒した際にケガをしないよう、室内にある鋭利な物やヤケドの原因となる物は普段から片付けておき、家具の角にはクッション材をつけたり、保護帽(ヘッドギア)を常に身に着けたりしておくなど、あらかじめ対策を講じておきましょう。
また、意識が混濁して歩き回るような発作があるお子さんもいます。お子さんの周囲からケガの原因となる物を取り除いたり、ときにはお子さんを安全な場所へと誘導したりすることも必要です。

  • ぶつかってケガの原因になるもの
    (家具・鋭利なもの)
  • ヤケドの原因になるもの
    (ストーブ、ポットなど)
  • 意識を失うと危険な場所
    (階段、道路など)
監修医からのメッセージ!

発作時の救急対応

てんかん発作は自然に止まることが多く、発作の対応はあわてずに落ち着いて行うことが大切です。それと同時に、「てんかん重積状態(30分以上続く発作)」に至らせないようにすることも重要です。

以下の場合には救急車を呼ぶことが推奨されますので、参考にしてください。また、発作はそれぞれのお子さんによって異なるため、普段の受診時に、主治医から発作時の対応の指示を具体的にもらい、お子さんに関わる人に伝えておきましょう。

  • 5分経っても全身の発作が止まる気配がない
  • 発作を何度も繰り返す
  • 顔色が悪く、呼吸が不規則な状態が続く
  • 発作後の様子がいつもと異なる
  • 頭部打撲後に意識がない、出血が止まらない
  • 不安でどうしたらよいかわからない

発作中にしてはいけないこと

口の中に物や指を入れない

発作中は口の中に物(タオル、スプーンなど)や指を入れてはいけません。歯が折れたり、窒息したりするおそれがあります。また、指を入れると噛まれてケガをする危険もあります。

体を押さえつけない

発作が起きた際、体を押さえつけても発作は止まりません。意識がもうろうとしている時に無理に行動を制限すると、かえって激しく暴れてしまう可能性があります。

意識が十分に回復するまで水や薬を飲ませない

発作で意識がぼんやりしていると、水や物をうまく飲み込めないことがあります。発作止めの頓服(とんぷく)薬などは、しっかり意識が回復し、十分に飲み込めるようになったのを確認してから服用させてください。

発作時の対応

発作時

1. 床に寝かせる

転倒によるケガを防ぐため、できるだけ安全な場所でお子さんを床に寝かせます。ただし、無理に長い距離を移動させる必要はありません。襟元や腰のベルトなど、体をしめつけている箇所があれば緩め、メガネは外してください。

2. 体を保護する

体を強くぶつけてケガをする可能性があるため、周辺にある危険な物を取り除いてください。また、頭の下に衣類などの柔らかい物を敷いて頭部を保護しましょう。

3. 発作後の対応

発作が止まり体の力が抜けたら、顔を横に向けてください。嘔吐があった場合、嘔吐物が口の中に戻って気管に入ってしまう可能性があるため、顔を横に向け、外に出しやすくします。また、ケガなどがなければ、そのまま呼吸や顔色を観察しながら様子を見守りましょう。発作のあとに眠ってしまうこともありますが、無理に起こさず、そのまま休ませてください。
お子さんの様子がしっかりいつも通りに戻るまでは、できるだけお子さんのそばを離れないでください。

発作後にもうろう状態が生じた時の対応

発作後に、もうろうとした状態が続くことがあります。場合によっては、その状態で立ち上がったり歩き回ったりすることもあるため注意が必要です。

1. 後ろから見守る

もうろう状態のお子さんが倒れそうになったら、そっと支えて椅子などに座らせます。また、歩き回るなどの行動を無理に制止すると、かえって激しく抵抗し、ケガをするおそれがあります。周辺にある危険な物を取り除き、後ろ(背後)から見守りながら、お子さんの意識が回復するのを待ちましょう。

2. さりげなく誘導する

事故や転落の危険がある場所でもうろう状態になった場合は、お子さんを安全な場所へと向かうよう、歩行をさりげなく誘導します。緊急の場合でも、前からではなく後ろ(背後)から制止するようにしましょう。

3. 意識の回復の程度を確認

多くの発作は数分で終わりますが、もうろう状態は数十分間続くこともあるため、危険がなければ、ときどきお子さんに声をかけて意識の回復具合を確認します。会話が可能であれば、名前や日付、今いる場所などを尋ねてみてください。

発作に注意が必要な場面

入浴時

1. 事前の対策をする

浴室での発作は転倒や溺水など事故につながりやすいため、事前に予防策を講じておきましょう。たとえば、転倒した際のケガを最小限にするため、浴室内には極力物を置かず、クッション性のあるマットを敷いておくなどするとよいでしょう。発作のタイミングによっては、蛇口からの熱湯や追い焚きのしすぎによってヤケドを負うこともあるため注意が必要です。

2. 浴槽に浸かる際は家族が常に注意を払う

発作のあるお子さんは、ご家族が一緒に入るなどの対策をしてください。ひとりで入浴する年齢のお子さんの場合、入浴はご家族が在宅時のみとし、入浴中は繰り返し声をかける、浴室に音声モニターをつけて様子を確認するなど、浴室内の音や入浴時間には常に注意を払いましょう。ひとりで入浴する場合には、溺水の危険がある浴槽よりもシャワー浴が勧められます。また、湯が張ってある場合、浴槽のふたは閉めておきましょう。

3. 発作が起きたら水面から顔を上げて意識の回復を待つ

浴槽での入浴中に発作が起きた場合は、まず呼吸ができるように顔を水面から上げ、意識が回復するのを待ちます。これが難しい場合には、ただちに浴槽の栓を抜いて排水してください。銭湯など大きな浴槽で発作が起こった場合には、上半身を起こして顔を水面から出し、発作がおさまるのを待ちます。
なお、発見した段階で溺れていた場合には、ただちに救助し、救急車を呼んでください。

プール

1. 1対1で見守る

プールは入浴時と同様に、転倒や溺水など事故につながりやすい環境ですが、てんかんがあるお子さんがプールに入れないということではありません。お子さんにとってさまざまな経験を積むことは重要なことであり、お子さんを1対1で見守れる体制を整えて、主治医ともよく相談し、プールに入るかを検討することが大切です。

2. 発作が起きたら体を支えて水面から顔を出す

プールで発作が起きたら、お子さんの体を支えて顔を水面から出して呼吸を確保し、意識が回復するのを待ちます。発作中に無理にプールの外に出そうとすると抵抗するなどしてケガをするおそれがあるため、意識が戻ってからプールから引き上げるか、お子さん自身で水から上がってもらいます。
なお、すでに溺れているところを発見した場合には、ただちにプールから引き上げ、救急車を呼んでください。

3. プールサイドでの転倒・転落にも注意

プールから上がった瞬間に発作が起き、転倒・転落する可能性もあります。発作で転倒しやすいお子さんは、プールサイドで大人と腕を組みながら移動するなどの対策が必要です。

食事中

1. あわてて口から食べ物を取り出す必要はない

食事中に発作が起こっても、発作中は飲み込む動作が停止するため、のどに食べ物を詰まらせることはあまりありません。そのため、発作が起きた際にあわてて口から取り出す必要はありません。なお、飲み込む力が弱いお子さんの場合は、発作がおさまってすぐに食事を再開すると、食べ物が気管に入ったり、のどに詰まったりする可能性があるため、慎重に様子を見守りましょう。

2. ケガやヤケドに注意する

食事中に発作が起こると、目の前にある食器類をひっくり返してしまい、ケガやヤケドを負ってしまう可能性があるため注意が必要です。対策として、割れにくい食器を使う、熱い汁物はお子さんから離れた場所に置くなどの工夫をしましょう。

学校生活での留意点

発作が起きたら状況を確認し、危険を取り除く

学校での発作についても、基本的には家庭と同様の対応を行います。教員は発作を起こした児童・生徒の周囲の状況をよく観察し、ケガの原因となる物を取り除き、安全な場所へと誘導します。発作が長く続いたり、繰り返したりする場合には養護教諭と対応を相談してください。また、発作を起こした児童・生徒が不安にならないよう、発作後も変わらない態度を取ることが重要です。

発作に伴うケガの危険度に合わせた指導計画を

てんかんのある児童・生徒の学習環境を過剰に制限しないよう、ケガの危険度に応じた指導計画を立てる必要があります。特にプールでの授業については、事前に主治医から指示を受けてもらい、教員と保護者で事前に話し合い、発作の状況や児童・生徒の病気に対する理解度、家族の希望などを確認して指導内容を検討してください。

薬の有害事象(副作用)に配慮する

てんかん治療の薬剤の有害事象(副作用)で眠気などが出て、ときに児童・生徒が授業に集中できないこともあります。そのことで児童・生徒を叱ってしまうことがないよう、教員は薬剤の有害事象(副作用)について、保護者とよく情報共有をしておきましょう。

監修;大阪市立総合医療センター 小児脳神経・言語療法内科 部長 岡崎 伸 先生