てんかんの治療

てんかんの3つの治療法

てんかんの治療法には薬物療法、外科療法、食事療法があり、主に薬物療法が行われます。

薬物療法

薬物療法の目的は、てんかん発作が起こらないようにすることです。てんかんの治療は数年、あるいは生涯にわたって続くため、治療がお子さんの日常生活に支障を来たさないよう、副作用や希望する生活スタイルなどを考慮して主治医が使用する薬剤を選択します。薬物療法を開始する際には、それぞれの薬剤のメリットとデメリットを確認したり、治療にどのようなことを望むのかなどを主治医と話し合ったりすることが大切です。

薬物療法の開始時期

薬物療法は、発作により重大なケガや障害を負うおそれがある場合や、社会生活を営むうえで悪影響を受けるおそれがある場合(例;学校で発作を起こした経験から登校できなくなる)などに開始されることが多いようです。自然終息性のてんかんなどでは、発作の回数や程度によっては薬物療法を行わず、経過観察を選択することもあります。主治医が正しく病状を判断できるよう、お子さんの日常の様子をしっかりと伝えることが大切です。

抗てんかん薬による治療の進め方

てんかん治療に使用する薬剤のことを「抗てんかん薬」または「抗てんかん発作薬」といいます。
抗てんかん薬は、脳の異常な電気信号が起こらないようにする薬剤で、多くの種類があります。どの薬剤を使用するかは、てんかん発作型やてんかん症候群、年齢、併存疾患(てんかん以外の持病)、副作用などを考慮して、主治医が患者さんに合ったものを選びます。

治療は1種類の薬剤での治療(単剤療法)から始めますが、発作が減らない場合には複数の薬剤を使用する併用療法に切り替えることが多いようです。治療によって発作が減り、副作用などの問題にも対処できるようになれば、その治療法を継続します。さらに、治療を始めて数年間発作が起こらなかった場合には、薬物療法を終了することもあります。

薬物療法を開始したら、自己判断で薬剤の量や服薬回数を変更したり中止したりせず、主治医の指示に従って服薬しましょう。また、体調などによって服薬が難しいと感じる時も、自己判断せずに主治医に相談してみましょう。

外科療法

一部のてんかんでは、手術により脳の異常部位を切除することでてんかんの根治(完治、治癒ともいいます)、または発作のコントロールなどが可能になります。薬物療法を1年以上続けても発作が抑えられない場合は、外科(手術)療法の検討が勧められます。ただし、外科療法による効果がある場合とない場合があるため、主治医とよく相談してください。

食事療法

てんかんの食事療法としては、ケトン食・修正アトキンスダイエットなどがあります。ともにパンやパスタといった炭水化物を制限し、たんぱく質や脂肪を多くとります。ケトン食はさまざまなてんかんの方に有効とされ、Glut-1欠損症という疾患では著明な効果を示します。ただし、低血糖など避けなければいけない留意点もあるため、主治医と相談のうえ、栄養士の指導のもとで行う必要があります。

その他の治療法

その他の治療法としては、ACTH療法やビタミンB6大量療法などがあり、いずれも乳児てんかん性スパズム症候群(IESS;旧ウエスト症候群)などに使用されます。

このうち、ACTH療法は副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を筋肉内に注射する方法です。ACTHがてんかん発作を抑制したり、脳波や行動を改善させたりする仕組みはまだ明らかにされていませんが、おそらく従来の抗てんかん発作薬とはメカニズムが異なると考えられています。このACTH療法の副作用としては易感染性(いかんせんせい;感染症にかかりやすい状態)、高血圧、不機嫌・イライラ、消化管潰瘍、脳萎縮などが知られています。

一方、ビタミンB6大量療法は、ビタミンB6が抑制性の神経伝達物質であるGABA(ギャバ)や、神経伝達に必要な各種アミノ酸の生成を助けることで、抗発作作用を発揮すると考えられています。このビタミンB6大量療法の副作用としては、肝機能障害や嘔吐・下痢・食欲不振などの消化器症状が知られています。

治療効果の判定

治療効果の判定として、まずはてんかん発作を評価します。評価の方法としてよくイメージされるのは、発作の回数が減ったのか増えたのかということです。確かにこれも大切なのですが、てんかん発作のタイプや強さ(発作持続時間、転倒の有無、呼吸への悪影響、発作から回復するまでの時間など)も重視すべき点であり、てんかん発作がどのように変化したかを正確にとらえ、てんかん発作が改善しているのか、増悪(ぞうあく)しているのかを医師が判定します。

このような判定を医師が正しく行うためには、ご家族の方が普段からお子さんの発作をよく観察し、きちんと記録をつけてもらうことが鍵となります。なぜなら、薬剤の服用後、「発作回数は少なめだった」「ここ最近、発作がつらい」「まあまあだった」「結構よかった」などの曖昧な表現では、主治医は正確な判断を下せず、結果的に治療の正確性が欠けたり、遅れたりしてしまうことがあるからです。発作が起こった際には、発作強度のほか、発作が起こったタイミング、意識レベル低下、転倒、発作後の頭痛や嘔吐などの有無とその程度も記録しておいてください。てんかん発作記録アプリを使用するほか、余裕があれば動画で残すことも有効です。

ほかにも、病院では治療効果の判定材料として脳波検査も行われます。脳波検査では、てんかん性異常波の出現の有無や、全体的な脳波の特徴が治療前とどのように変化したかが評価されます。
ただし、治療効果の判定においては、てんかん発作の推移と脳波の結果だけが優先されるわけではありません。発作による生活の変化、認知や行動、睡眠、精神、運動機能などへの影響を確認し、治療によって身体的、精神的、社会的にみた生活の質が改善したかどうか、薬剤の有害事象がなかったかどうかを、医師がトータルで評価していることを覚えておいてください。

特に小児神経医は、お子さんの日常生活に支障がなかったか、社会性に影響がなかったかを重要視しています。たとえば発作のために通園・通学、行事参加などが難しくなったり、あるいは薬剤の有害事象で眠気が増したり、食欲や活力・やる気が低下したりしていないかを注意深く見ています。

抗てんかん薬の作用点

てんかんは、脳に異常な電気信号が生じている状態です。そのため、この異常な電気信号を抑えて、てんかん発作が起こらないようにするために抗てんかん薬(抗てんかん発作薬)が用いられます。

この抗てんかん薬には多くの種類がありますが、脳の神経細胞に作用する点(作用点)が薬剤によってそれぞれ異なります。ですから、てんかんが難治に経過した場合、ある薬剤が効果的であることがわかっていて、その効果をさらに期待したい時には、その薬剤と同じ作用点があるものに変更したり、ある薬剤に効果がなかったり副作用が強く出たりする場合には、その薬剤と作用点が異なるものを使うことを考えます。

また、てんかん治療は基本的には1種類の薬剤で治療を試みますが、その薬剤だけで発作を抑えられない場合には、いくつかの薬剤を組み合わせて併用します。その際、同じ作用点のものを併用するよりも、違う作用点の薬剤を組み合わせる方が、治療効果が得られる可能性が高くなると考えられています。主治医は、患者さん一人ひとりの状態に合わせて、最適な組み合わせや用量になるように薬剤を調整していきます。

主な抗てんかん発作薬の作用点
主な抗てんかん発作薬の作用点
監修医からのメッセージ!

てんかんは治るの?

てんかん患者さんやご家族から「てんかんは治るのですか?」と聞かれることがあります。

てんかんの治療は、まずは薬物療法でてんかん発作を抑制する(発作の回数をゼロにする)ことを目指しています。子どものてんかんの中には、思春期の頃にてんかんが自然に終息する(てんかんが治まる)タイプがあり、そのようなタイプの場合には、時期が来れば薬剤を徐々に減量・中止しますが、その後、発作が全く生じないことがあります。このようなケースは、てんかんが“治る”と表現してもよいのだろうと思います。

一方、抗てんかん発作薬でてんかん発作を抑制できているものの、その薬剤の中止は難しい方も多くみられます。しかし、薬剤を服用し続けていても、さまざまなことに挑戦したり、仕事についたりすることも可能です。また、薬剤の減量や中止は、決して自分で判断してはいけません。わからないことや不安に思うことがあれば、必ず主治医にご相談ください。

監修;大阪市立総合医療センター 小児脳神経・言語療法内科 部長 岡崎 伸 先生