5.薬物療法について
多発性骨髄腫の薬物療法は、腫瘍細胞を消失させることを目標に行われます。薬物療法の内容や量は造血幹細胞移植の可否、年齢などによって異なります。長期間にわたって病状をコントロールするためには、できるだけ、標準治療を受けることが重要です。
移植を受ける人の治療法
大量薬物療法と自家造血幹細胞移植を組み合わせた標準治療を行います。まずは、複数の抗がん剤やさまざまなタイプのおくすりを組み合わせた薬物療法(寛解導入療法)を3~4コース行い、白血球を増やすおくすりを注射して、患者さん自身の造血幹細胞を採取し凍結させておきます。その後、大量の抗がん剤を投与し、自家造血幹細胞移植を行って造血機能を回復させます。腎障害が起こっている場合などでは、移植前の抗がん剤の量を調整する場合もあります。
移植を受ける人の導入療法では、プロテアソーム阻害剤、アルキル化剤、免疫調節薬、アントラサイクリン系抗腫瘍薬、ステロイドなどのおくすりを組み合わせて使います(表6)。
移植を受けない人の治療法
標準治療では、さまざまなタイプのおくすりを併用する薬物療法を行います。初回の治療では、プロテアソーム阻害剤、ステロイド、アルキル化剤、免疫調節薬、抗体薬などのおくすりを組み合わせて投与します。その後、休薬して様子をみるか、あるいは、維持療法としてプロテアソーム阻害剤、免疫調節薬、ステロイドなどのおくすりによる治療を続ける場合もあります(表6)。
高齢者、腎臓や心臓などに持病のある人は、その程度に応じておくすりの量を減らし、重い副作用が出ないように気を付けながら病状をコントロールすることが大切です。表7の「リスク因子」が1つ以上ある人や重度の骨髄抑制(白血球・好中球・血小板の減少、貧血)がある人は、ヨーロッパの専門家のグループがこれまでの知見からつくった基準などをもとに、段階的に、おくすりの量を減らします。
また、骨髄腫による合併症や患者さんの持病、体力、希望に応じて、おくすりの組み合わせや量を変えることもあります。
維持療法とは
維持療法は、初回の薬物療法によって得られた奏効状態を維持して、再発までの期間や生存期間を延ばす目的で行われる薬物療法です。移植を受ける人の場合は移植のあと、移植を受けない人は寛解導入療法のあと、維持療法を行うことがあります。それは、移植を受けたかどうかにかかわらず、維持療法が再発予防につながり生存率を改善するという報告があるからです。維持療法を行うかどうかやその期間は、再発リスク、年齢、患者さん自身の希望、生活スタイルによって判断します。
維持療法のメリットは、強力な導入療法よりもおくすりの数や強度を減らしながら奏効状態の維持を目指し、生存期間の延長が期待できることです。デメリットは、維持療法を行わずに経過観察を受ける場合と比べて、通院や検査の回数が多くなることです。維持療法は、定期的な通院は必要になりますが、最近では、治療薬の種類(プロテアソーム阻害剤、免疫調節薬など)、投与方法(経口剤、注射剤)や治療頻度(週1回、連日など)が異なる、さまざまな治療選択肢がでてきています。
初回導入療法と比べても治療負担の増えない選択肢もあります。
入院が必要な治療とは
多発性骨髄腫の薬物療法は、内服薬も多いため、一般的には、外来に通院する形で治療を受けることが多くなっています。
入院が必要になるのは、自家造血幹細胞を採取するときと移植を行うときです。また、治療の1コース目は、強い副作用が出ることがあるため、入院して治療することもあります。
【治療の効果を知りたいときに― 治療の効果判定について ―】
薬物療法の効果は、国際的な効果判定基準(2016年IMWG基準、表8)に基づいて判定します。効果判定の指標は、sCR(厳格な完全奏効)、CR(完全奏効)、VGPR(最良部分奏効)、PR(部分奏効)、MR(軽度の奏効)、SD(不変)、PD(病状進行)に分けられます。
効果判定のためには、血液中と尿中の両方のM蛋白の検査が必要です。誤りがないことを確認するために、連続した2回の検査結果をもとに効果を判定することが推奨されています。ただし、sCR、あるいはCRかどうかを判定するための骨髄検査は1回でよく、複数回受ける必要はありません。
微小残存病変(MRD)陰性とは
多発性骨髄腫の治療の進歩によって、より深いレベルの奏効が得られる患者さんが増えています。MRD陰性は、顕微鏡ではわからない分子学的なレベルで、骨髄腫細胞が検出できないことを示します。2016年のIMWGで国際的なMRDの評価基準が追加されました(表9)。