6.症状(合併症)を
改善する治療について
骨病変には、骨髄腫細胞を減らすための薬物療法と並行して、症状を改善する治療を行うことが大切です。
高カルシウム血症、貧血、腎不全、感染症、神経障害などの症状に対しても、それぞれ症状を軽減したり改善したりする治療が行われます。
骨病変
大部分の多発性骨髄腫では、診断時や再発時に骨がもろくなったり痛みが出たりする骨病変がみられます。その場合、抗RANKL抗体製剤の皮下注射、ビスホスホネート製剤の点滴投与によって骨の破壊を抑えます。腎障害のあるときには抗RANKL抗体製剤、あるいは減量したビスホスホネート製剤を投与します。どちらのおくすりも、あごの骨が炎症を起こし壊死する顎骨壊死を起こすことがあるので、事前に歯科医のチェックを受け、口腔ケアを行うことが大切です。また、低カルシウム血症を起こさないようにビタミンD製剤やカルシウム製剤の併用が必要な場合があるため、主治医の指示に従ってください。
骨折しているときや骨の補強が必要なときには、患部の骨を補強する手術をする場合もあります。脊椎の圧迫骨折がある人は、コルセットを着用すると、圧迫骨折の進行や痛みが軽減されます。また、痛みが取れない場合にはバルーン椎体形成術(BKP)という治療も開発されています。骨の痛みの治療には患部への放射線照射も有効です(表10)。
高カルシウム血症と腎不全
高カルシウム血症に対しては、生理食塩水を点滴して脱水症状を改善させるほか、カルシウムを尿へ排出させ心臓の負担を減らすために利尿薬を投与します。腎機能に注意しながらビスホスホネート製剤の点滴投与を行います。骨病変の治療薬である抗RANKL抗体製剤は腎障害のときにも投与可能で、効果の発現が早いので緊急時には有用です。
腎不全は多発性骨髄腫の治療で回復する可能性があるので、できるだけ早く標準的な治療を開始します。腎機能を回復させるためには、水分を多めに摂取します。腎機能がかなり低下しているときには、一時的に人工透析を行うことがあります。
貧血と感染症
貧血がひどいときは赤血球の輸血を行います。腎機能の低下による貧血には、赤血球を増やすおくすりを注射することもあります。
感染症の対策として、肺炎球菌ワクチンの接種、インフルエンザの流行時期にはインフルエンザワクチンの接種が推奨されています。プロテアソーム阻害剤の治療や造血幹細胞移植を受けるときには帯状疱疹を発症しやすいため、抗ヘルペスウイルス薬を投与します。
神経障害と過粘稠度症候群
脊髄圧迫による知覚障害や運動麻痺が起こったら、できるだけ早く放射線照射とステロイド治療などの処置、場合によっては緊急手術を行います。過粘稠度症候群は、M蛋白の増加によって血液がドロドロになった状態で、めまい、頭痛、目が見えにくくなるといった自覚症状が出ます。M蛋白の急速な除去が必要なときには、M蛋白を含む血漿を除去し、健康な人の凍結血漿を入れる血漿交換を行います。