思春期は、性ホルモンの分泌により「思春期の体の変化(二次性徴)」と「急激な成長速度の亢進(思春期のスパート)」がみられ、男の子は男の子らしい、女の子は女の子らしい体つきに変わり、最終的に生殖能力を獲得し、成長が止まり大人になっていく時期です。
思春期早発症は、年齢に不相応な早い時期に性ホルモンが分泌されて二次性徴と思春期のスパートが起こる疾患です。 思春期早発症は、女の子が男の子の約3〜5倍多く発症します。「発育が早い分にはかまわないのでは・・・?」と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、この疾患には3つの問題点があります。
早期に二次性徴が発現することにより、子ども同士のつきあいのなかで、周りが違和感を感じたり、本人がとまどって心理的なストレスを生じます。
一時的に身長が伸びますが、それを上回るスピードで骨の成熟が進行し、普通よりも早期に骨端線(骨が成長するところ)が閉鎖します。そのため、ほかの子どもより早く身長の伸びが止まってしまい、結果的に低身長になってしまいます。
「思春期早発症」の原因が脳腫瘍である場合があるので、早期発見、早期治療の可否が生死にかかわることもあります。
以上の理由から、早めに診断を受け、適切な治療を受けることが大切なのです。
しかし、「思春期早発症」にも、思春期の成熟がゆっくりで、治療をしなくても成人身長が低身長にならないslowly progressive type(スローリープログレッシブタイプ)と呼ばれるものもありますので、専門医の診察をうけることが重要です。
思春期とは、二次性徴が始まり、成熟して、身長発育が最終的に停止するまでの時期をいいます。
二次性徴は、女の子では乳房の発育から始まり、陰毛の発育、初経(初潮)と成熟していきます。男の子は、精巣(睾丸)の発育、陰茎の発育、陰毛の発育、声変わりと成熟していきます。
これらの二次性徴の始まりと成熟は、性ホルモンの働きによるものです。性ホルモンは、女の子ではエストロゲンという女性ホルモンが卵巣から、男の子ではテストステロンという男性ホルモンが精巣(睾丸)から分泌されます。
これらの性ホルモンの分泌は、脳の視床下部から分泌されるゴナドトロピン放出ホルモン(Gn-RHまたはLH-RH:黄体形成ホルモン放出ホルモン)というホルモンが、脳の下垂体を刺激して分泌されるゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)によって調節されています(図1aとb)。
女の子の思春期の始まりは、乳房が少しふくらんできたときで、痛がることもあるので、気をつけていればわかりやすいのですが、男の子の思春期の始まりは、精巣(睾丸)が4mℓに発育した時点ですので、一般にはほとんど気づかれません。思春期の始まりは、平均で女の子は9歳9ヵ月、男の子は11歳6ヵ月です。
活発になった性ホルモンの働きによる二次性徴とともに、成長ホルモンの分泌も多くなり、身長が急激に伸び、平均最大年間成長速度は、男の子で約10cm/年、女の子で約8cm/年に達します。
思春期開始から成人身長に達するまでに、男の子で約4〜5年、女の子で約3〜4年かかりますが、この間に男の子は20〜40cm、女の子は15〜35cm伸びます。しかし、思春期の開始時期によって思春期の身長の伸びは影響をうけ、個人差もかなりあります。
二次性徴と思春期の成長率*の関係は図2の通りです。思春期が始まると成長速度が上昇し(思春期のスパート)、最大成長速度がみられるころは、男女とも陰毛が発育する時期です。
男の子の声変わりや女の子の初経(初潮)は、思春期の後期ですので成長率も低下しており、平均的に初経(初潮)が12歳3ヵ月ごろに始まった女の子では初経(初潮)から成人身長までの伸びは、6〜7cmです。
*成長率:1年間に身長が何cm伸びたか
田中敏章; Pharma medica, 1995, 13(5), 127-140. より一部改変