腎細胞がんの治療:薬物治療
手術による治療がむずかしい場合や手術ではがんを完全に切除できない場合、がんが転移・再発した場合などには、薬物療法(おくすりによる治療)を中心とした治療が行われます。
腎細胞がんの薬物治療では、近年、おくすりの開発が進み、新しいおくすりが次々に登場しています。そのため、選択できるおくすりの種類が増え、一つのおくすりで十分な効果が得られなかった場合でも、患者さんの状態やがんの状態に応じた治療が行えるようになってきました。
腎細胞がんの薬物療法には、現在「免疫療法」と「分子標的薬」があり、免疫療法には「サイトカイン療法」と「免疫チェックポイント阻害薬」があります。がんの状態や全身状態、薬物治療を初めて受けるのか、2番目以降なのかなどによって、使われる薬剤が選択されます。
●免疫療法
「免疫」とは、体の中に侵入してきた細菌やウイルスなどの異物(自分以外のもの)やがんなどの異常な細胞を排除することによって体を守るしくみです。この免疫は、生活習慣、病気などのさまざまな影響で弱まることがあります。また、がん細胞が免疫の攻撃から逃れる術を身につけ、免疫システムにブレーキをかけることで免疫が弱まったりすることもあります。免疫が弱まると、がん細胞を異物として排除しきれなくなってしまいます。
そこで、免疫を担っている免疫細胞(リンパ球などの白血球)の働きを活性化させたり、活性化を持続させたりすることにより、がん細胞を排除しようとする治療法が行われます。この治療法を「免疫療法」と呼んでいます。
サイトカイン療法
サイトカインは、私たちの体のいろいろな細胞から分泌される生理活性タンパク質の総称で、「免疫細胞を活性化させる働き」を持つものがあります。サイトカインの持つこの働きを利用して免疫を強めることにより、がんを排除する治療法を「サイトカイン療法」といいます。
サイトカイン療法の副作用としては、一般的に、発熱、だるさ、食欲不振、吐き気・嘔吐、頭痛、脱毛、白血球減少などが報告されています。
薬物治療を受けたときに出現しやすい副作用や症状の強さ、出現時期などはおくすりの種類によって異なり、患者さんお一人おひとりによっても異なります。
治療を開始する前に、医師から十分な説明を受けましょう。
サイトカイン療法の働き
免疫チェックポイント阻害薬
免疫細胞は異物(ウイルスや細菌、がん細胞)を攻撃することで私たちの体を守っていますが、免疫が強くなりすぎると自己免疫疾患やアレルギーのような病気になるので、私たちの体には免疫が暴走しないように「ブレーキボタン」も備わっています。
【PD-1とその阻害】
がん細胞は、この「ブレーキボタン」を悪用して免疫の攻撃をやめさせ、生き延びようとします。免疫システムにブレーキがかかると免疫が弱まり、がん細胞を異物として体から排除しきれなくなってしまうのです。
免疫チェックポイント阻害薬の一つとして、T細胞表面のPD-1とがん細胞表面のPD-L1との結合をブロックすることにより免疫細胞の働きにブレーキがかからないようにして、T細胞の活性化を持続させることにより、がん細胞の増殖を抑えるおくすりがあります。
①PD-1に対する阻害薬の働き
【CTLA-4とその阻害】
免疫チェックポイント阻害薬には、T細胞の表面に生じたCTLA-4という分子と別の免疫細胞の表面に生じたB7というタンパク質との結合をブロックするおくすりもあります。
②CTLA-4に対する阻害薬の働き
PD-1とPD-L1との結合をブロックするおくすり①や、CTLA-4とB7との結合をブロックするおくすり②以外にも、がん細胞が出すPD-L1に結合して(T細胞表面の)PD-1との結合をブロックするおくすりも開発されています。
免疫チェックポイント阻害薬の副作用としては、疲労、味覚異常、吐き気、下痢、胃腸障害、かゆみ・発疹などが報告されています。
●分子標的薬
がん細胞の増殖には、ヒトの細胞をおおっている膜(細胞膜)の表面にある特定の分子(タンパク質や遺伝子)がかかわっています。分子標的薬は、その特定の分子を標的とすることにより、効率よくがん細胞を攻撃するおくすりです。
※「腎細胞がんの発生と増殖」もご参照ください。
分子標的薬は、①増殖(成長)因子のかわりに受容体と結合してしまう(増殖・成長因子と受容体との結合をブロック)、または②受容体の働きを阻害することにより、がん細胞の増殖・浸潤・転移を抑えるおくすりです。
薬物療法は、一般的に、手術ではがんを完全に切除できない場合や、がんが転移・再発した場合などに選択されますが、分子標的薬による治療は、全身状態が悪い場合、多くの臓器に転移が認められる場合などで、手術の前に補助的に行われることもあります。
分子標的薬の一般的な副作用には高血圧、疲労、下痢、発疹などがあります。