「神経発達症群※」とは
※日本精神神経学会精神科病名検討連絡会:DSM-5 病名・用語翻訳ガイドライン(初版).精神神経学雑誌 第116巻第6号,
2014,pp.429-457
米国精神医学会が発行するDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders(DSM)「精神疾患の診断・統計マニュアル」では、精神疾患の分類と診断基準が示されています。DSMは精神疾患の診療(診断)基準の一つとして世界中で用いられており、DSM-5(2013年発行)から神経発達症群(神経発達障害群)というカテゴリーがつくられました。
なお、精神疾患の英語名は、一部の例外を除き、最後に「disorder」という単語が付きます。この用語は、これまで「障害」と訳されてきましたが、障害という用語の持つマイナスのイメージなどを考慮し、日本精神神経学会 精神科病名検討連絡会は、児童青年期の疾患と不安関連の疾患においてdisorderを「症」と訳すことを決定しました。ただし、「~障害」という用語が広く知られて使われている状況を踏まえ、当面は、「~症」と「~障害」の2つの訳語を併記しています。
神経発達症群とは、日常生活、社会生活、学業や職業などにおける機能の障害を引き起こし、発達期に発症する一連の疾患群をいいます。発達の問題は学習など限られたものから、知能の全般的な障害までさまざまです。
神経発達症群に含まれる特性
神経発達症群には、ADHD(注意欠如・多動症)、自閉スペクトラム症(ASD)、学習障害/限局性学習症(LD/SLD)などが含まれます。
- ●注意欠如・多動症(ADHD)
- ●自閉スペクトラム症(ASD)
- ●学習障害/限局性学習症(LD/SLD)
- ●知的能力障害群(ID)
- ●コミュニケーション症群(CD)
- ●発達性協調運動症(DCD)
など
また、これらの神経発達症群のいくつかを併せ持つ子どもが多く存在するといわれています。例えば下図のようにADHDの特性がありながら、ASDやLD/SLDを併せ持つようなことがあります(「併発する神経発達症群」詳細はコチラ)。
神経発達症の併存疾患のイメージ
※このほかにも併存する疾患として知的能力障害や脱抑制型対人交流障害などもあります
厚生労働省ホームページ :パンフレット「発達障害の理解のために」 より引用改変
http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/hattatsu/dl/01.pdf
子どもの成長や環境により状態が変化することもあるため、年齢が上がってから特性に基づいた日常生活や社会生活の困難さが顕著になる場合もあります。例えば、小学校高学年で学習内容の難易度が上がり、量も増えてくることで、不注意を背景とした学習面での困難さが表面化して、ADHDと診断された子どもでも、低学年くらいまでは特性が顕在化しなかった場合などもあります。また、複数の神経発達症を持っている場合に、年齢や環境によりそれらの中の一つがより顕著になることがあります。例えば、幼児期から小学校低学年までは多動性の特性が目立っていたのが、年齢が上がるに従いASDのマイペースさが目立つようになることもあります。一方、周囲の適切な関わりと本人の気づきや努力などにより、生活上では大きな問題が目立たなくなることもあります。
早くからの正しい理解と適切な支援を
子どもの成長の歩みは一人ひとり異なります。ですので、その育ちを支える保育・教育、医療などの適切な対応や支援がとても大切になってきます。
神経発達症群の有無にかかわらず、発達の特性や困難に気づくことができれば、その子をよりよく理解し、その子らしさを伸ばしていくことができます。
監修
- 前多小児科クリニック 院長 前多 治雄 先生