コミュニケーションが苦手でこだわりが強いなどの特性から、ほかの人から誤解されてしまったり、対人関係を築きにくかったりと、生きづらさを感じてしまう子どもがいます。このような背景には、神経発達症群(発達障害)の一つであるASD(自閉スペクトラム症)が関係している場合があります。
※ASDとは、Autism Spectrum Disorderの略語で、日本名では「自閉スペクトラム症」や「自閉症スペクトラム障害」などと呼ばれています。
ASDとは
ASDとは、「人との関わりやコミュニケーションが苦手」、「興味にかたよりがある・こだわりが強い」、「感覚と運動にかたよりがある」などの特性がみられる神経発達症群(詳細は下記をご覧ください)の一つです。これらの特性に加えて、生活に支障をきたしているなどの基準を満たしたときにASDと診断されます。近年国内で行われた5歳児を対象とする調査によると、ASDの特性を持つ子どもは100人中およそ3人であると報告*されています。
ASDの特性の現れ方は、障害の重症度、知的発達の遅れの有無、成長に伴う変化によって一人ひとり違います。また、ASDの特性だけが目立つタイプもあれば、ほかの神経発達症群(ADHD[注意欠如・多動症]、LD/SLD[学習障害/限局性学習症]、発達性協調運動症など)を併せ持つこともあります。
*Saito M et al.: Mol Autism. 11(1):35, 2020
神経発達症群(発達障害)とは
神経発達症群(発達障害)とは、特定の能力や一連の情報の獲得、維持、適用に発達上のかたよりがあることで、生活に悪影響が生じる神経学的な状態をいいます。神経発達症群(発達障害)はいくつかのタイプに分類されており、ASDのほかに、ADHD、LD/SLDなどがあります。
人との関わりやコミュニケーションに関連する事象
以下のような事象が日常生活に悪影響を及ぼすことがあります。
- 相手の状況を考えずに、自分の言いたいことを中心に話す
- 友だちと遊んでいる最中に、他のことに興味が移ってしまうと勝手に抜けてしまう
- 相手の表情から気持ちを読み取ることが苦手
- 例え話や冗談が通じない
- 難しい言葉を使ったり、大人びた言い方をする
興味のかたより・こだわりの強さに関連する事象
以下のような事象が日常生活に悪影響を及ぼすことがあります。
- 特定の服や持ち物に執着する、収集する
- 物を一列に並べたり、置き方にこだわったりする
- ごっこ遊びや見立て遊びが苦手
- 回ったり、跳んだり、手をひらひらさせるなど同じ動きをくり返す
- 同じ道順や手順、スケジュールにこだわり、変更するとパニックになる
- ルールや約束を忠実に守ることに必死になり、相手にも求めてしまうことがある
- 興味・好みの範囲が非常に狭く、深い
- 一番になることに執着する
感覚と運動のかたよりに関連する事象
以下のような事象が日常生活に悪影響を及ぼすことがあります。
- 特定の感触や音を嫌がったり、特定の感覚にこだわる
- 味覚が敏感で、好き嫌いが激しい
- 注射などの痛みに敏感または鈍感なことがある
- 暑さや寒さを感じにくく、冬でも半ズボンやショートパンツなどを履いて、薄着で過ごす
- 細かな作業が苦手、不器用
- 身体の動きがぎこちない、運動が苦手
ASDの原因
ASDの原因はまだはっきりとわかっていませんが、さまざまな要因が複雑に関与して起こる、生まれつきの「脳」の機能に原因があると考えられています。親の育て方や本人の性格、生活環境によってASDになるわけではありません。
ASDの子どもの行動や事象を前向きに捉えていこう
ASDの子どもの行動や事象には、前向きに捉えられるところがたくさんあります。例えば、以下のようにネガティブに捉えられがちなASDの子どもの行動や事象への認識を改めて 、関わる大人も子ども自身もポジティブな気持ちで向き合える場面を増やしていきましょう。
- ● 言葉通りに受け取ってしまう
- 素直な性格
- ● 1つのことへのこだわりが強い
- 探究心がある、粘り強い
- ● 同じ道順や手順にこだわる
- 真面目で几帳面
監修
- 前多小児科クリニック 院長 前多 治雄 先生