集中力が続かない、落ち着きがない、順番を待てないなどの特性により、日常生活や学校生活に困難を抱える子どもがいます。このような困難の中には、育て方やしつけによるものでも、子どもの努力が足りないわけでもなく、神経発達症群(発達障害)の一つであるADHD(注意欠如・多動症)が背景にあることもあります。
※ADHDとは、Attention-Deficit / Hyperactivity Disorderの略語で、日本名では「注意欠如・多動症」や「注意欠如・多動性障害」などと呼ばれています。
ADHDとは
ADHDは、不注意、多動性、衝動性の3症状を主な特徴とする生まれつきの精神疾患で、神経発達症群(詳細は下記をご覧ください)の一つとされています。海外の学術論文では18歳以下で約5%存在すると報告*されています。ADHDは、3つの特徴が通常の発達の水準からすると不相応で普段の生活に直接悪影響を及ぼすほど深刻な場合に一定の基準をもって診断されます。これら3つの特徴は、同時に全て現れるというわけではなく、「不注意」が目立つ場合、「多動性」や「衝動性」が目立つ場合、また全てを併せ持つ場合など、子どもによってさまざまな形で現れます。一方、成長とともに状態が変化することもあり、例えば大人になってその特徴が自然と目立たなくなることがあります。また、成長に伴って、本人が状況に対処する「コツ」のようなものを身につけることで、その特徴が目立たなくなることもあります。しかし、その場合も特徴そのものが、全てなくなるということではありません。
*Guilherme Polanczyk et al.:The worldwide prevalence of ADHD:A systematic review and metaregression analysis.
Am J Psychiatry.164(6):942-948, 2007
神経発達症群(発達障害)とは
神経発達症群(発達障害)とは、特定の能力や一連の情報の獲得、維持、適用に発達上のかたよりがあることで、生活に悪影響が生じる神経学的な状態をいいます。
神経発達症群(発達障害)はいくつかのタイプに分類されており、ADHDのほかに、限局性学習症、自閉スペクトラム症などがあります。
不注意に関連する事象
年齢に相応しくない以下のような事象が少なくとも半年以上にわたって続き、日常生活に悪影響を及ぼすことがあります。
- 忘れ物やなくし物が多い
- 話しかけても聞いていない
- 約束などを忘れてしまう
- すぐに気が散ってしまう
- 細かいことを見過ごしてしまう
(ケアレスミスが多い) - 課題や遊びなどを途中でやめてしまう
- 物事をやり遂げることができない
- 順序立てることや整理整頓ができない
- コツコツやること(勉強など)を
避けたり、いやいや行う
多動性・衝動性に
関連する事象
年齢に相応しくない以下のような事象が少なくとも半年以上にわたって続き、日常生活に悪影響を及ぼすことがあります。
- 手足をそわそわ動かしている
- 授業中に席を離れてしまう
- じっとしていられない
- 静かにできない
- 急に走り出す
- おしゃべりが過ぎる
- 質問が終わる前に答えてしまう
- 順番を抜かしてしまう
- 友だちのしていることをさえぎる
ADHDの原因
ADHDの原因は、はっきりとはわかっていません。さまざまな研究より、ADHDは「脳」の機能に原因があることで、注意や行動をコントロールすることが難しくなっていると考えられています。
生まれつきのものであり、きちんとしたしつけを受けていないことや、また、逆に厳しすぎる養育環境によって、ADHDになるというわけではありません。
ADHDの子どもの行動や事象を前向きに捉えていこう
ADHDの子どもの行動や事象には、前向きに捉えられるところがたくさんあります。例えば、以下のようにネガティブに捉えがちなADHDの子どもの行動や事象への認識を置き換えて、関わる大人も子ども自身もポジティブな気持ちで向き合える場面を増やしていきましょう。
- ● 物事をやり遂げることができない
- 切り替えが早い
- ● おしゃべりが過ぎる
- 積極的にコミュニケーションをとる
- ● 質問が終わる前に答えてしまう
- すばやく反応できる
監修(五十音順)
- 社会福祉法人 恩賜財団母子愛育会 愛育相談所 所長 齊藤 万比古 先生
- こころとそだちのクリニック むすびめ 院長 田中 康雄 先生
- 信貴山病院 ハートランドしぎさん 副院長 根來 秀樹 先生*
- 東海大学 医学部専門診療学系精神科学 教授 松本 英夫 先生
- 東京家政大学 子ども学部子ども支援学科 教授 宮島 祐 先生
- *監修いただいた際のご所属先とは異なります