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PIDの診断と治療について

PIDの診断と治療について
どのように治療しますか?

PIDの治療について解説しています。

監修 : 東京医科歯科大学 小児地域成育医療学講座 教授 金兼 弘和 先生

PIDの治療法は、病気の種類や重症度によって異なりますが、主に3つの治療法があります。

  • 抗菌薬や免疫を高める薬で感染症を予防します。
  • 免疫グロブリンの定期補充による治療をします。
  • 造血細胞移植を行う場合があります。

また、病気によっては、免疫のはたらきを抑える治療が必要になる場合もあります。
次に3つの治療法の概要を見ていきましょう。

感染症の予防と治療

PIDでは感染症にかかりやすくなるため、感染症を予防する必要があります。
感染症の原因となる病原体には、ウイルス細菌真菌(カビ)原虫などがあり、病気によって感染しやすい病原体は異なります。好中球や抗体産生に異常がみられる病気では細菌感染が多く、T細胞などに異常がみられる病気ではウイルス感染が多い傾向があります1)。したがって、感染症の予防や治療には、自分がかかっている病気の原因に合った薬を選択する必要があります。
細菌による感染症が問題になるような病気の軽症例では、抗菌薬を予防的に服用することで効果があるとされており、免疫グロブリンを定期的に補充することで通常の日常生活を送ることができます1)
感染症はいったんかかると治りにくいため、かかった場合は本人や家族には治癒したようにみえても、ご自身の判断で治療を中断しないことが大切です2)

免疫力を高める治療(免疫グロブリン補充療法)

免疫グロブリンは抗体と呼ばれるたんぱく質で、B細胞(Bリンパ球)で作られます。B細胞や抗体(免疫グロブリン)そのものに異常がある病気では、血液中の抗体が少なくなったり、機能しない抗体ばかりになったりします。そこで、免疫グロブリン製剤と呼ばれる薬を定期的に注射して、体の中の正常な抗体を一定の量に保っておく治療を行うことで、感染症の予防効果があります。

免疫グロブリンは特定の病原体を攻撃する武器

免疫グロブリンには5つの種類があり、中でも血液中に一番多く存在するのが免疫グロブリンG(Immunoglobulin G)で、IgG(アイジージー)と呼ばれます。IgGはY字型をしていて、Y字の腕の先端が病原体に結合することで、病原体を攻撃します。どのIgGも、特定の病原体だけに結合できるようにB細胞で作られます。そして、その病原体が体に入ってきたときに、攻撃して撃退します。

免疫グロブリン製剤は、国内外において健康な人の血液からIgGを取り出して作られます。免疫グロブリン製剤のなかにはいろいろな種類の病原体に対するIgGが入っているので、いろいろな病原体に対して攻撃的にはたらきます。

重症な疾患の場合は造血細胞移植を行うこともあります

重症なPIDの治療のためには、免疫を担う血液中の成分を正常なものに置き換える必要があります。そのため、健康なドナー(造血幹細胞の提供者)から採取した造血幹細胞を移植する“造血細胞移植”が行われます。

造血幹細胞とは造血幹細胞とは

※造血幹細胞とは

造血幹細胞は、骨の中心部にある骨髄の中で血球を作り出す元になっている細胞です。造血幹細胞は骨髄の中で盛んに細胞分裂を行い、赤血球・白血球・血小板に成長します。

造血細胞移植の種類

骨髄移植

白血球、赤血球、血小板などの血液の成分は、骨髄中の造血幹細胞が分裂することで作られます。ドナー(提供者)の骨髄から採取した造血幹細胞を移植することを骨髄移植といいます。

臍帯血(さいたいけつ)移植

骨髄のほかに、へその緒を流れる血液(臍帯血)の中にも造血幹細胞があることから、臍帯血バンクで保管されている臍帯血も造血細胞移植に使うことができます。これを臍帯血移植といいます。

末梢血(まっしょうけつ)幹細胞移植

造血幹細胞は、通常は末梢血中には存在しませんが、G-CSFという薬を数日間注射すると血液中に現れるようになります。そこで、前もってドナーにG-CSFを注射することで、末梢血にたくさん出てきた造血幹細胞を集めて、それを患者さんに移植します。これを末梢血幹細胞移植といいます。

PIDでは骨髄非破壊的移植が多い

一般的に、造血細胞移植は白血病やリンパ腫に対して行われることが多く、前処置として白血病細胞などを全滅させるように強い抗がん剤や放射線治療を組み合わせた治療が行われます。
一方、PIDではそこまで強力な前処置は必要なく、抗がん剤の強度を弱めて行われることが多くなっているため、前処置による副作用や合併症が少なくなっています。これを骨髄非破壊的移植といいます。