造血幹細胞が持つ2つの能力(自己複製と分化)によって、造血が行われています。
造血幹細胞移植を知る
造血幹細胞移植(ぞうけつかんさいぼういしょく)とは、あらかじめ採取しておいた「造血幹細胞」を移植(輸注※1)して、骨髄で血液をつくる機能(造血能)を補う治療法です。
造血幹細胞とは、血液の成分である白血球・赤血球・血小板の大元になる細胞です。
造血幹細胞は、骨の中心部分にある骨髄の中に存在し、自分と同じものを増やすことができる「自己複製」という能力と、最も若いと考えられる造血幹細胞から白血球・赤血球・血小板に成長することができる「分化※2」という能力を持っています。
造血幹細胞が白血球・赤血球・血小板に分化すると、全身を巡る血液(末梢血)中へ流れ出していきます(図1)。
赤血球:肺から取り込まれた酸素を全身の組織へ運搬します
白血球:細菌・真菌(カビ)、ウイルスなどの病原体に対抗します
(白血球は、好中球、好酸球、好塩基球、単球、リンパ球の5種類で構成されています)
血小板:傷ついた血管壁に粘着・凝集して一次止血をします
造血幹細胞が持つ2つの能力(自己複製と分化)によって、造血が行われています。
血液がん(白血病、リンパ腫など)は、抗がん剤や放射線療法による治療効果が期待できますが、なかにはこれらの治療によって治すことが難しい患者さんもいらっしゃいます。
効果を高めるために、抗がん剤の投与量や放射線の照射量を増加させることもありますが、一定量以上増やして強力な治療を行うと、骨髄の造血能が低下し、私たちのからだを守るために重要な働きをしている白血球・赤血球・血小板の量が減ったまま回復しなくなってしまいます。
造血幹細胞移植は、こうした造血能が維持される用量での抗がん剤や放射線療法だけでは治すことが難しい血液がんに対して、より強力な治療を実施できるようにするために行われます。
強力な治療によってがん細胞とともに骨髄の造血能がほぼ失われた状態になっても、体外から造血幹細胞を移植することで造血能が回復し、白血球・赤血球・血小板がつくられるようになります(図2)。
また、ドナー※3から採取された造血幹細胞を移植する同種造血幹細胞移植(「造血幹細胞移植の種類」参照)では、ドナー由来の免疫を担う細胞によって「GVL効果※4」と呼ばれるがん細胞を攻撃する効果も得られます。
血液がん以外の疾患では、再生不良性貧血※5や免疫不全症※6などに対して造血幹細胞移植が行われる場合があります。
監修:内田 直之先生 国家公務員共済組合連合会虎の門病院 血液内科 部長