造血幹細胞移植知る

細菌・真菌感染症

移植後早期の細菌・真菌感染症1,2)

移植後30日くらいまでの移植後早期には、移植前処置(大量の抗がん剤投与や全身への放射線照射)による影響で、細菌・真菌(カビ)に対抗する好中球※1が著しく減少しています。
また、移植前処置や移植に伴うさまざまな影響により、口の中や消化管などの粘膜がダメージを受けるため、細菌・真菌(カビ)が体内に侵入しやすくなります。

好中球が減少しているこの時期には、環境中や体内に常在する細菌や真菌による感染症が増加します。
これらに対して、抗菌薬と抗真菌薬の予防投与が行われます。
好中球減少中の移植後早期に発熱など感染症を疑う症状が現れた場合には、感染症の原因菌を調べる血液培養と抗菌薬や抗真菌薬による治療が行われます。

移植後中期以降の細菌・真菌感染症1-3)

移植後30〜100日くらいまでの移植後中期とそれ以降も、移植片対宿主病(GVHD)※2の予防・治療に用いられる免疫抑制薬やステロイドなどによる影響で、免疫機能が低下しています。

移植後中期2,3)

移植後30〜100日までの移植後中期は、アスペルギルス、ニューモシスチスによる真菌感染症(肺・副鼻腔アスペルギルス症、ニューモシスチス肺炎)が起こりやすいとされています。

〈移植後中期に起こりやすい真菌感染症と主な症状〉

  • 肺アスペルギルス症:発熱、せき、痰、痰に血が混じる、だるさ、息切れや息苦しさなど
  • 副鼻腔アスペルギルス症:鼻づまり、どろどろした黄色い鼻水、鼻の中が臭うなど
  • ニューモシスチス肺炎:発熱、せき、息切れや息苦しさなど

これらの真菌感染症を発症した場合には、抗真菌薬による治療が行われます。
また、免疫抑制薬を使用している場合には、ニューモシスチス肺炎を予防するための薬剤の投与が行われます。

移植後後期1-3)

移植後100日以降の移植後後期には、アスペルギルス、ニューモシスチスによる真菌感染症に加えて、肺炎球菌、インフルエンザ菌、髄膜炎菌などによる細菌感染症(細菌性肺炎、細菌性髄膜炎、菌血症※3など)が起こりやすいとされています。

〈移植後後期に起こりやすい細菌感染症と主な症状〉

  • 細菌性肺炎:発熱、痰のからんだ咳、ゴボゴボといった咳、息切れや息苦しさ、全身のだるさなど
  • 細菌性髄膜炎:発熱、頭痛、嘔吐、意識障害など
  • 菌血症:発熱、血圧低下など

これらの細菌感染症は、病状が急速に進行して命に危険が及ぶこともあるため、原因菌が判明する前から抗菌薬による治療を開始します。原因菌判明後には、抗菌薬が変更となることもあります。
また、特に肺炎球菌による感染症は、移植後1年以降の晩期でも発症するリスクが高いことから、その予防として肺炎球菌ワクチンの接種が推奨されています。

  • ※1好中球:白血球を構成する種類の1つ。白血球の中で最も多く50〜60%を占め、体内に侵入した細菌・真菌(カビ)を取り込んで排除する
  • ※2GVHD:移植片対宿主病(graft-versus-host disease)の略。同種造血幹細胞移植後に起こる合併症の1つ
  • ※3菌血症:無菌であるはずの血液中に細菌が存在する状態

出典

  • 1)神田善伸. 造血幹細胞移植診療実践マニュアル(改訂第2版).南江堂,2022.
  • 2)日本造血・免疫細胞療法学会編. 造血細胞移植看護基礎テキスト.南江堂,2021.
  • 3)日本造血細胞移植学会ガイドライン委員会編. 造血細胞移植学会ガイドライン第4巻.https://www.jstct.or.jp/uploads/files/guideline/04_01_ltfu.pdf(2024年5月1日アクセス)

監修:内田 直之先生 国家公務員共済組合連合会虎の門病院 血液内科 部長