造血幹細胞移植知る

感染症の予防対策

造血幹細胞移植では、移植前処置(大量の抗がん剤投与や全身への放射線照射)、合併症予防のための免疫抑制薬投与によって細菌・真菌(カビ)、ウイルスなどの病原体に対する抵抗力が低下し、感染症を発症するリスクが高まります1)
そのため、造血幹細胞移植を受けた患者さんは、移植日以降、数年間にわたって感染症を予防するための対策が必要となります。

移植後早期〜退院までの感染症予防1-3)

環境管理1-3)

患者さんは、生着までの一定期間、感染症に対する防護環境の整った病室で過ごした後、一般病室に移ります。
病室内の環境管理では、ホコリの集積を防ぐ(ぬいぐるみや折鶴などの持ち込みを最小限にするなど)、虫の混入や水・土中の菌繁殖を防ぐ(植物・ドライフラワーの持ち込みを控えるなど)ことが必要になります。
病室に入室する面会者は、感染症の持ち込み、身体の清潔(適切な手洗いを行う、清潔な衣類を着用する、長い髪の毛を束ねるなど)に留意する必要があります。

衛生管理3)

患者さんは、手指・口腔内・皮膚など全身の衛生管理を行う必要があります。

  • 手指:流水での液体石鹸による手洗いまたはアルコール手指消毒を行う、ペーパータオルか患者さん専用の清潔なタオルを使用して手を拭く、など
  • 口腔内:定期的なうがい・歯磨きを行う、移植前に口腔外科や歯科を受診して口腔の状態を改善しておく、など
  • 皮膚など:可能な限り毎日シャワー浴または清拭(蒸しタオルでからだを拭くなど)を行う、排尿・排便ごとに陰部を清潔にする、洗濯後にしっかりと乾燥させた清潔な衣類を身に着ける、など

退院後の感染症予防1,3)

手洗い・うがい1,3)

感染予防の基本である手洗い・うがいは継続します。特に外から帰宅した際の手洗いとうがいは大切です。
手洗いは、固形石鹸よりも衛生的に管理しやすい液体石鹸の使用が推奨されています。
タオルは、同居者と同じものを使用せず、毎日交換します。

外出1,3)

人ごみへの外出、呼吸器症状のある人との接触はできるだけ避け、工事現場・建築現場・発掘現場やホコリの積もっている環境に近づくことは避ける必要があります。

掃除1,3)

自宅の大掃除や模様替えは、退院前に終了しておく必要があります。
退院後の掃除は、基本的にご家族や同居者に行ってもらうようにします。
患者さん自身が掃除・ゴミの処理を行う場合には、マスク・手袋の着用と換気を行い、掃除後は手洗いとうがいを行う必要があります。
ホコリが蓄積したり、細菌や真菌(カビ)が発生・増殖したりしないよう、エアコンのフィルター、水回り、冷蔵庫内などを含めて定期的に掃除を行うことも大切です。

ガーデニング・土いじり1,3)

土や植物には直接接触せず、どうしても接触しなければならない場合には手袋とマスクを装着するようにします。
土壌中には多くの細菌や真菌(カビ)が含まれているため、移植後最低6ヵ月間は避けることが望ましいとされています。

入浴、プール1,3)

細菌や真菌(カビ)などによる感染が起こる恐れがあるため、銭湯などの公共浴場、循環式風呂やプールの利用は避ける必要があります。
公共浴場の利用や水泳などは、移植後最低6ヵ月間は避けることが望ましいとされています。

動物との接触(ペット)3)

特に、ハトなどの鳥、猫の糞、ハ虫類との接触は避ける必要があります(クリプトコッカス、トキソプラズマ、サルモネラなどに感染する恐れがあるため)。
ペットとの接触はできるだけ避け、ペットやペット周囲のものに触れた場合には手指の洗浄をしっかりと行います。ペットの排泄物には直接触れず、どうしても接触しなければならない場合には手袋とマスクを装着するようにします。

食事1)

免疫抑制薬を服用している間や医師の許可があるまでは、細菌・ウイルスに感染するリスクのある食品(生肉・生魚、火を通していない食品、アルコール、自家製の発酵食品、チーズなど)の摂取が制限されます。
食品の準備・調理・保存では、細菌やウイルスの付着、細菌の増殖を防ぐことが大切です。

性生活1)

免疫抑制薬やステロイド薬使用中の性交渉は、避けることが望ましいとされています。
性交渉する場合には、特定の相手と避妊具を使用して行う必要があります。

  • 生着:移植した造血幹細胞が骨髄の中で白血球などをつくり始め、造血が回復すること

出典

  • 1)日本造血・免疫細胞療法学会編. 造血細胞移植看護基礎テキスト.南江堂,2021.
  • 2)一般社団法人 日本造血・免疫細胞療法学会ホームページ. https://www.jstct.or.jp/(2024年5月1日アクセス)
  • 3)日本造血細胞移植学会. 造血細胞移植ガイドライン─造血細胞移植後の感染管理(第4版). 2017年9月.https://www.jstct.or.jp/uploads/files/guideline/01_01_kansenkanri_ver04.pdf(2024年5月1日アクセス)

監修:内田 直之先生 国家公務員共済組合連合会虎の門病院 血液内科 部長