造血幹細胞移植知る

ヘルペスウイルス感染症

ヘルペスウイルスには、単純へルペスウイルス(herpes simplex virus:HSV)、水痘・帯状庖疹ウイルス(varicella zoster virus:VZV)、ヒトヘルペスウイルス6(human herpesvirus 6:HHV-6)などの複数の種類があり、いずれも一度感染すると生涯にわたり潜伏感染※1します1,2)
潜伏しているHSV、VZV 及びHHV-6は、移植後に再活性化をきたすことが多く、さい帯血移植はHHV-6再活性化の強いリスク因子であるとされています1-3)
移植後早期から生着※2期にかけては HSVの再活性化によるHSV感染症、生着直後はHHV-6の再活性化によるHHV-6感染症、生着後から数年間はVZVの再活性化によるVZV感染症が発症しやすくなります2-4)

症状1-3)

移植後のHSV感染症では、唇やその周囲、口の中、陰部などに皮膚病変(小さな水ぶくれ、ただれなど)が現れます。
移植後のVZV感染症では、皮膚病変(帯状の赤い湿疹や小さな水ぶくれ)と痛みや違和感、かゆみなどが典型的な症状ですが、急激な腹痛や肝障害に伴う症状などが現れる場合もあります。
移植後のHHV-6感染症では、特有の脳炎を発症することによる意識障害、記憶障害、痙攣などの症状が現れます。

予防2,3)

移植後のHSV感染症やVZV感染症は、重症化する可能性もあるため、移植前処置を行う前にHSVとVZVに対する抗体※3を保有しているかを調べることが推奨されています。
これらの抗体を保有している患者さんに対しては、抗ウイルス薬の内服薬(飲み薬)による予防投与が行われます。
予防投与の期間は、HSV抗体保有者で移植7日前から移植後35日まで、VZV抗体保有者で同種造血幹細胞移植後1年間または免疫抑制薬を中止するまでとされています。
移植後のHHV-6感染症では、有効な予防方法は確立されていません。

治療2-4)

予防投与の期間中は、HSV感染症やVZV感染症を発症する可能性が低いとされていますが、HSVやVZVの再活性化が疑われる症状が現れることもあります。
その場合には、抗ウイルス薬の注射薬の投与、抗ウイルス薬の内服薬(飲み薬)の増量や投与期間延長などが行われます。
HHV-6感染症を発症した場合は、HSV感染症やVZV感染症と同様に、抗ウイルス薬の投与が行われます。

  • ※1潜伏感染:ウイルスなどの病原体による感染が生じていて、感染した人の免疫力低下による症状発現を待機している状態
  • ※2生着:移植した造血幹細胞が骨髄の中で白血球などをつくり始め、造血が回復すること5)
  • ※3抗体:病原体などからからだを守る物質

出典

  • 1)公益社団法人 日本皮膚科学会ホームページ. 皮膚科Q&A. https://www.dermatol.or.jp/qa/(2024年5月1日アクセス)
  • 2)一般社団法人 日本造血・免疫細胞療法学会. 造血細胞移植ガイドライン─HHV-6(第2版). 2022年1月.https://www.jstct.or.jp/uploads/files/guideline/01_03_03_hhv6_02.pdf(2024年5月1日アクセス)
  • 3)日本造血細胞移植学会ガイドライン委員会編. 造血細胞移植学会ガイドライン第4巻.https://www.jstct.or.jp/uploads/files/guideline/04_01_ltfu.pdf(2024年5月1日アクセス)
  • 4)一般社団法人 日本造血・免疫細胞療法学会. 造血細胞移植ガイドライン─ヘルペスウイルス感染(HSV・VZV). 2018年2月.https://www.jstct.or.jp/uploads/files/guideline/01_03_07_hsv-vzv.pdf(2024年5月1日アクセス)
  • 5)日本造血・免疫細胞療法学会編. 造血細胞移植看護基礎テキスト.南江堂,2021.

監修:内田 直之先生 国家公務員共済組合連合会虎の門病院 血液内科 部長