造血幹細胞移植を知る
生着とは、移植した造血幹細胞が患者さんの骨髄の中で白血球などをつくり始め、造血が回復することです(図1)。
生着するまでの期間の目安(移植後2〜4週間)が過ぎても生着しなかったり、一度は生着したものの再び白血球が減少してしまったりすることを生着不全といいます。
生着不全が起こった場合には、感染症・薬剤などが原因であればその原因(ウイルス感染など)に対する治療、免疫抑制薬の調整、ドナーリンパ球輸注、別の造血幹細胞を用いた再移植などが行われます。
生着症候群は、生着前後に免疫の活性化に関与する炎症性サイトカインという物質の過剰な産生が原因で起こるとされています。
症状としては、発熱、浮腫(むくみ)、胸水(呼吸が苦しくなる、胸が痛くなる)、腹水(原因不明の体重増加)、皮膚の発疹、黄疸、下痢などが現れることがあります。
治療には、ステロイドを中心とした免疫抑制薬が用いられます。
また、さい帯血移植後は生着前の移植後9日目前後に、高度発熱、体重増加、皮疹などの症状が現れることがあり、これを生着前免疫反応といいます。
移植片対宿主病(いしょくへんたいしゅくしゅびょう)(graft-versus-host disease:GVHD)は、同種造血幹細胞移植(同種移植)でドナーから移植された造血幹細胞からつくられた白血球(主にリンパ球※1)が、患者さん自身の臓器や組織を敵とみなして攻撃することによって起こります(図1)。
GVHDは症状や発症時期などから、急性GVHDと慢性GVHDに分類されます(表)。
急性GVHDでは主に皮膚、消化管、肝臓が敵とみなされて攻撃を受け、慢性GVHDでは皮膚、眼、口腔粘膜のほか全身のさまざまな臓器や組織が敵とみなされて攻撃を受け、症状が現れます。
GVHDを発症した場合には、重症度や症状などに応じて治療が行われます。
また、GVHDの発症を予防するため、同種移植を行う前日あたりから免疫抑制薬の投与が開始されます。
分類 | 急性GVHD | 慢性GVHD |
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発症時期 |
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攻撃を受ける臓器と症状 |
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治療 |
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血栓性微小血管症(transplant-associated thrombotic
microangiopathy:TMA)は、血栓が細い血管につまるために臓器への血液循環が悪くなり、組織の機能が障害される状態です。
移植後にTMAを発症した場合には、免疫抑制薬の減量・中止などが行われます。
肝類洞閉塞症候群(sinusoidal obstruction
syndrome:SOS)は、肝臓の類洞と呼ばれる細い毛細血管が閉塞されることで発症する病気です。
SOSは、移植後3週間以内に発症することが多く、黄疸(眼球の白いところ、皮膚や爪などが黄色っぽくなる)、右上腹部痛を伴う肝腫大※4、体重増加などの症状が現れます。
治療には、SOS治療薬が用いられます。
移植後100日以降に発症し、長期的な生活の質(quality of life:QOL)に影響を与える合併症を晩期合併症といいます。
晩期合併症には、GVHDのほか、骨関節障害(骨量低下、骨粗しょう症など)、白内障、甲状腺機能異常、精巣・卵巣などの性腺機能不全・不妊、肝障害、心血管障害や腎障害などの臓器障害、別の種類のがんが発生する二次発がんなどがあります。
予想される晩期合併症の発症予防や早期発見が重要です。
監修:内田 直之先生 国家公務員共済組合連合会虎の門病院 血液内科 部長