造血幹細胞移植知る

移植関連合併症

生着不全1,2)

生着とは、移植した造血幹細胞が患者さんの骨髄の中で白血球などをつくり始め、造血が回復することです(図1)。
生着するまでの期間の目安(移植後2〜4週間)が過ぎても生着しなかったり、一度は生着したものの再び白血球が減少してしまったりすることを生着不全といいます。
生着不全が起こった場合には、感染症・薬剤などが原因であればその原因(ウイルス感染など)に対する治療、免疫抑制薬の調整、ドナーリンパ球輸注、別の造血幹細胞を用いた再移植などが行われます。

図1. 造血幹細胞移植前〜生着までの骨髄の状態2)

図1. 造血幹細胞移植前〜生着までの骨髄の状態

宮崎仁. もっと知りたい白血病治療(第2版),p.90,2019,医学書院

生着症候群、生着前免疫反応1,3)

生着症候群は、生着前後に免疫の活性化に関与する炎症性サイトカインという物質の過剰な産生が原因で起こるとされています。
症状としては、発熱、浮腫(むくみ)、胸水(呼吸が苦しくなる、胸が痛くなる)、腹水(原因不明の体重増加)、皮膚の発疹、黄疸、下痢などが現れることがあります。
治療には、ステロイドを中心とした免疫抑制薬が用いられます。
また、さい帯血移植後は生着前の移植後9日目前後に、高度発熱、体重増加、皮疹などの症状が現れることがあり、これを生着前免疫反応といいます。

移植片対宿主病(GVHD)1-3)

移植片対宿主病(いしょくへんたいしゅくしゅびょう)(graft-versus-host disease:GVHD)は、同種造血幹細胞移植(同種移植)でドナーから移植された造血幹細胞からつくられた白血球(主にリンパ球※1)が、患者さん自身の臓器や組織を敵とみなして攻撃することによって起こります(図1)。

図2. GVHDが起こるしくみ2)

図2. GVHDが起こるしくみ

宮崎仁. もっと知りたい白血病治療(第2版),p.92, 2019,医学書院

GVHDは症状や発症時期などから、急性GVHDと慢性GVHDに分類されます(表)。
急性GVHDでは主に皮膚、消化管、肝臓が敵とみなされて攻撃を受け、慢性GVHDでは皮膚、眼、口腔粘膜のほか全身のさまざまな臓器や組織が敵とみなされて攻撃を受け、症状が現れます。
GVHDを発症した場合には、重症度や症状などに応じて治療が行われます。
また、GVHDの発症を予防するため、同種移植を行う前日あたりから免疫抑制薬の投与が開始されます。

表. GVHDの症状と治療3-5)

分類 急性GVHD 慢性GVHD
発症時期
  • 通常、移植後2〜4週間ごろに発症(通常は移植後60日以内に発症)するとされています
  • 移植後100日以降に急性GVHDの症状がみられることもあります
  • 通常、移植後100日以降に発症するとされています
  • 移植後100日以内に慢性GVHDの症状がみられることもあります
攻撃を受ける臓器と症状
  • 皮膚:皮疹(しばしばかゆみを伴う)が手のひら、足の裏、手足、胸のあたり、顔面や全身へと広がります。重症化すると水ぶくれができて皮膚がはがれます
  • 消化管:茶色〜緑色の水様便(下痢)が起こります
  • 肝臓:肝障害、黄疸(眼球の白いところ、皮膚や爪などが黄色っぽくなる)が起こります
  • 皮膚:赤く盛り上がった発疹などが起こるほか、皮膚が硬くなる、皮膚の色が濃くなる・薄くなるなどの変化が起こります
  • 眼:ドライアイ、涙液減少、眼の痛み・異物感、まぶたが腫れて赤くなる、光を眩しく感じるなどが起こります
  • 口腔粘膜:口の中に白色の模様が現れる、口の中が乾燥するなどが起こります
  • 消化管:嚥下障害※2が起こります
  • 肺:運動時の息切れ、空咳、喘鳴※3などが起こります
  • 関節:関節が動かしにくくなります
治療
  • 皮膚症状に対しては、ステロイド外用薬(塗り薬)を病変部分に塗布します
  • ステロイド外用薬で皮膚症状が改善しない場合、消化管症状や肝障害などを伴う場合には、ステロイドを投与します
  • 軽症で症状が狭い範囲にとどまっている場合には、ステロイドなどの外用薬(塗り薬、点眼薬など)を病変部分に使用します
  • 中等症以上の場合などには、ステロイドなどの投与が行われます
  • 免疫抑制薬の減量中に発症した場合には、再増量が行われます

血栓性微小血管症(TMA)1,6)

血栓性微小血管症(transplant-associated thrombotic microangiopathy:TMA)は、血栓が細い血管につまるために臓器への血液循環が悪くなり、組織の機能が障害される状態です。
移植後にTMAを発症した場合には、免疫抑制薬の減量・中止などが行われます。

肝類洞閉塞症候群(SOS)6,7)

肝類洞閉塞症候群(sinusoidal obstruction syndrome:SOS)は、肝臓の類洞と呼ばれる細い毛細血管が閉塞されることで発症する病気です。
SOSは、移植後3週間以内に発症することが多く、黄疸(眼球の白いところ、皮膚や爪などが黄色っぽくなる)、右上腹部痛を伴う肝腫大※4、体重増加などの症状が現れます。
治療には、SOS治療薬が用いられます。

晩期合併症3)

移植後100日以降に発症し、長期的な生活の質(quality of life:QOL)に影響を与える合併症を晩期合併症といいます。
晩期合併症には、GVHDのほか、骨関節障害(骨量低下、骨粗しょう症など)、白内障、甲状腺機能異常、精巣・卵巣などの性腺機能不全・不妊、肝障害、心血管障害や腎障害などの臓器障害、別の種類のがんが発生する二次発がんなどがあります。
予想される晩期合併症の発症予防や早期発見が重要です。

  • ※1リンパ球:白血球を構成する種類の1つ。体内に侵入した細菌・真菌(カビ)、ウイルスなどの病原体を異物と認識し、病原体を排除する
  • ※2嚥下(えんげ)障害:食べ物や飲み物などを口の中に入れて飲み込むことを嚥下といい、これが障害された状態。嚥下障害が起こると、食べ物が飲み込みにくくなったと感じたり、食事の時にむせたりする
  • ※3喘鳴(ぜんめい):呼吸をするときにヒューヒュー・ゼーゼーという音がすること
  • ※4肝腫大(かんしゅだい):肝臓が部分的または全体的に腫れている状態

出典

  • 1)日本造血・免疫細胞療法学会編. 造血細胞移植看護基礎テキスト.南江堂,2021.
  • 2)宮崎仁. もっと知りたい白血病治療(第2版). 医学書院,2019.
  • 3)神田善伸. 造血幹細胞移植診療実践マニュアル(改訂第2版).南江堂,2022.
  • 4)一般社団法人 日本造血・免疫細胞療法学会. 造血細胞移植ガイドライン─GVHD(第5版) . 2022年11月.https://www.jstct.or.jp/uploads/files/guideline/01_02_gvhd_ver05.1.pdf(2024年5月1日アクセス)
  • 5)日本造血細胞移植学会ガイドライン委員会編. 造血細胞移植学会ガイドライン第4巻. https://www.jstct.or.jp/uploads/files/guideline/04_01_ltfu.pdf(2024年5月1日アクセス)
  • 6)一般社団法人 日本造血・免疫細胞療法学会. 造血細胞移植ガイドライン─SOS/TA-TMA(第2版) . 2022年1月.https://www.jstct.or.jp/uploads/files/guideline/01_06_06_sos_ta-tma02n.pdf(2024年5月1日アクセス)
  • 7)一般社団法人 日本造血・免疫細胞療法学会ホームページ. https://www.jstct.or.jp/(2024年5月1日アクセス)

監修:内田 直之先生 国家公務員共済組合連合会虎の門病院 血液内科 部長