造血幹細胞移植知る

造血幹細胞移植について

造血幹細胞移植とはどのような治療か1-3)

造血幹細胞移植(ぞうけつかんさいぼういしょく)とは、あらかじめ採取しておいた「造血幹細胞」を移植(輸注※1)して、骨髄で血液をつくる機能(造血能)を補う治療法です。

造血幹細胞とは、血液の成分である白血球・赤血球・血小板の大元になる細胞です。
造血幹細胞は、骨の中心部分にある骨髄の中に存在し、自分と同じものを増やすことができる「自己複製」という能力と、最も若いと考えられる造血幹細胞から白血球・赤血球・血小板に成長することができる「分化※2」という能力を持っています。
造血幹細胞が白血球・赤血球・血小板に分化すると、全身を巡る血液(末梢血)中へ流れ出していきます(図1)。

図1. 造血のしくみと白血球・赤血球・血小板の機能2)

図1. 造血のしくみと白血球・赤血球・血小板の機能

「後藤秀樹:正常細胞のしくみ,造血細胞移植看護 基礎テキスト(日本造血・免疫細胞療法学会編),p.3,2021,南江堂」より許諾を得て改変し転載.

赤血球:肺から取り込まれた酸素を全身の組織へ運搬します

白血球:細菌・真菌(カビ)、ウイルスなどの病原体に対抗します
(白血球は、好中球、好酸球、好塩基球、単球、リンパ球の5種類で構成されています)

血小板:傷ついた血管壁に粘着・凝集して一次止血をします

造血幹細胞が持つ2つの能力(自己複製と分化)によって、造血が行われています。

造血幹細胞移植を行う目的とは1,2)

血液がん(白血病、リンパ腫など)は、抗がん剤や放射線療法による治療効果が期待できますが、なかにはこれらの治療によって治すことが難しい患者さんもいらっしゃいます。
効果を高めるために、抗がん剤の投与量や放射線の照射量を増加させることもありますが、一定量以上増やして強力な治療を行うと、骨髄の造血能が低下し、私たちのからだを守るために重要な働きをしている白血球・赤血球・血小板の量が減ったまま回復しなくなってしまいます。
造血幹細胞移植は、こうした造血能が維持される用量での抗がん剤や放射線療法だけでは治すことが難しい血液がんに対して、より強力な治療を実施できるようにするために行われます。
強力な治療によってがん細胞とともに骨髄の造血能がほぼ失われた状態になっても、体外から造血幹細胞を移植することで造血能が回復し、白血球・赤血球・血小板がつくられるようになります(図2)。

図2. 造血幹細胞移植がもたらす主な効果

図2. 造血幹細胞移植がもたらす主な効果

また、ドナー※3から採取された造血幹細胞を移植する同種造血幹細胞移植(「造血幹細胞移植の種類」参照)では、ドナー由来の免疫を担う細胞によって「GVL効果※4」と呼ばれるがん細胞を攻撃する効果も得られます。

血液がん以外の疾患では、再生不良性貧血※5や免疫不全症※6などに対して造血幹細胞移植が行われる場合があります。

  • ※1輸注(ゆちゅう):(造血幹細胞が含まれた)輸液を静脈内に投与すること
  • ※2分化:若い細胞が成長して機能を持つ細胞に変化していく過程のこと
  • ※3ドナー:臓器や造血幹細胞を患者さんに提供する人のこと
  • ※4GVL効果:移植片対白血病効果(graft-versus-leukemia effect)の略。ドナーから移植された造血幹細胞からつくられた白血球が、患者さんの体内に残っているがん細胞を攻撃する反応
  • ※5再生不良性貧血:末梢血中の白血球・赤血球・血小板のすべてが減少する病気
  • ※6免疫不全症:細菌やウイルスなどの病原体に対抗する免疫機能に異常がある病気

出典

  • 1)神田善伸. 造血幹細胞移植診療実践マニュアル(改訂第2版).南江堂,2022.
  • 2)日本造血・免疫細胞療法学会編. 造血細胞移植看護基礎テキスト.南江堂,2021.
  • 3)一般社団法人 日本造血・免疫細胞療法学会ホームページ. https://www.jstct.or.jp/(2024年5月1日アクセス)

監修:内田 直之先生 国家公務員共済組合連合会虎の門病院 血液内科 部長