臓器移植知る

感染症の予防対策

臓器移植後は、細菌・真菌(カビ)やウイルスによる感染症が起こりやすく、ときには命の危険につながるおそれもあります1)
そのため、臓器移植を受けた患者さんは、感染症を予防するための対策に取り組む必要があります。

手洗い・うがい1)

外出先から帰宅した際には、手洗いとうがいを行うことが大切です。

マスクの着用1)

移植後3カ月ぐらいまでは、外出時にマスクの着用が必要となります。
移植後3カ月以降は、インフルエンザが蔓延しているとき、人混みに入るときなど、季節や環境に応じてマスクの着用が必要となることがあります。

動物・ペットとの接触1)

動物の糞の中にはさまざまな真菌(カビ)が含まれるため、動物との接触は極力避ける必要があります。
特に、鳩・鳥の多い公園などには行かないことが大切です。

ペットとの接触は、免疫抑制薬の飲む量が減り、急性拒絶反応(「合併症:拒絶反応」参照)の危険性が落ち着いてきた段階であれば可能とされています。
ただし、下記の注意事項に気をつける必要があります。

〈ペットとの接触における感染症予防のための主な注意事項〉

  • ペットを飼う際に猫と鳥は避ける(猫は自由に行動してねずみなどを捕ったりすることで感染を媒介することがある。鳥はカビなどの菌を運んでくるおそれがある)
  • ペットは出来るだけ室内で飼わないようにする
  • ペットの散歩は移植後3カ月以降から開始する
  • ペットを触った後は手を良く洗う
  • ペットとのキス、口移しで食べ物を与える行為は避ける
  • ペットの世話(ペットを洗う、小屋の掃除、病気の面倒など)は家族や他の人に頼む
  • ペットの尿や糞便、嘔吐物がついているものには触らない

外出1)

真菌(アスペルギルスなど)の混入した粉塵が飛んでいる可能性が高い場所(工事現場、建築現場など)は、避けて通る必要があります。

ワクチン接種1-3)

感染症を予防するためのワクチンは、病原体となるウイルスや細菌を原材料として作られ、生ワクチン※1や不活化ワクチン※2などがあります。
移植後は、原則的に生ワクチン(風疹、おたふくかぜ、はしかなどを予防するワクチン)の接種ができないため、移植前に接種しておくことが望ましいです。
移植後の不活化ワクチン(インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンなど)の接種は、原則可能です。不活化ワクチンの接種時期については、主治医に相談する必要があります。
また、新型コロナウイルス感染症のワクチンは、臓器移植を受けた患者さんにも接種することが推奨されています。

食事1,2)

細菌が増殖している可能性があるものの摂取は、避ける必要があります。
また、調理後の時間経過や保存状態にも注意しなければなりません。
特に、免疫抑制薬の投与量が多い移植後3カ月ぐらいまでは、加熱処理されていない魚介類、寿司、生肉、生卵などの摂取は避けることが推奨されています。
免疫抑制薬の投与量が減量される6カ月以降ぐらいから、刺身や寿司などの生もの、生野菜、果物は新鮮で安全・清潔なものであれば食べることができます。
解禁時期については、主治医に相談する必要があります。

〈細菌が増殖している可能性がある食べ物〉

  • 調理後、2~3時間を超えて不適切な保存方法で経過した食品や生もの
  • カビを含んだチーズ
  • 消費期限切れの食品
  • 自宅で漬けたつけもの

など

  • ※1生ワクチン:病原体となるウイルスや細菌の毒性を弱めて病原性をなくしたものを原材料として作られたワクチン
  • ※2不活化ワクチン:病原体となるウイルスや細菌の感染する能力を無くして不活化したものを原材料として作られたワクチン

出典

  • 1)一般社団法人 日本移植学会ホームページ_一般の方.http://www.asas.or.jp/jst/general/(2024年5月1日アクセス)
  • 2)一般社団法人 日本移植学会 Transplant Physician委員会編. 必携 内科医のための臓器移植診療ハンドブック.ぱーそん書房,2023.
  • 3)一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会 こどもとおとなのためのワクチンサイト.https://www.vaccine4all.jp/topics_M-detail.php?tid=4(2024年5月1日アクセス)

監修:石田 英樹先生 東京女子医科大学病院 移植管理科 泌尿器科 教授