ADHDの診断はどのように行われるのでしょうか。おおまかな流れや医療機関の受診の仕方などについて解説します。
診断を行うのは?
子どもの発達を専門的に診ることができて、診断や治療を行うのは、児童精神科や小児科で子どもの発達や心の診療に関わる医師です。なかなかこのような医療機関が見つからない場合は、かかりつけの小児科に相談して紹介状を書いてもらうほか、地域の保健センター、福祉相談の窓口あるいは精神保健福祉センターなどで紹介してもらうこともできます。
ADHDが疑われる場合に、必ず医療機関にかからなければならないということはありませんが、子どもが学校生活で困難を抱えていて、保護者が子どもの行動について悩んでいる場合、受診を勧めることを検討してみるのも一つの方法です。
ただ、ADHDを専門に診ることができる医師はまだ少ないため、予約が取れず、初診まで待機期間が長いことも少なくないのが現状です。医療機関でなくても、地域で子どもの発達のことや育児について相談にのってもらえる場所に連絡を取り、まずはそこで話を聞いてもらうということもできます(「学校外での連携」の詳細は
コチラ)。
医療における診断は、子どものことを周囲の人に理解してもらうことや子どもが公的支援を受けやすくすることには有用です。保護者がこのような利点を理解して、同意できるようであれば、医療機関への受診を勧めることを積極的に考えてもよいかもしれません。
受診に必要なもの
初めて医療機関を受診する場合、保護者はこれまでの子どもの成長や状態がわかるものを持参するように指示されることがあります。
● 母子健康手帳
● 育ちの歩みや、これまでの子どもの様子を具体的に書き出したメモ
● 保育園や幼稚園の連絡帳
● 小学校の通知表や子どもが描いた絵、書いたノート
<担任の先生へのお願い>
ADHDの診断の参考とするために、家庭以外の子どもの評価も必要になるため、保護者と保育者・教師に子どもの行動を客観的に評価してもらうチェックリストや質問票を事前に渡して回答してもらうようにする医療機関もありますので、そういった依頼に応じ、学校でのその子の様子を書いたお手紙を用意するなど、保護者へ協力するように心がけてください。
受診の内容
初診では、子どもと保護者の面談が中心になります。また、場合によっては診断の参考にするために検査が行われる場合もあります。
保護者との面談
医師から保護者に対して、子どもの様子、保育園・幼稚園、学校での様子、保護者が日ごろ気になっていることなどが質問されます。出生時や乳児期のことなど忘れてしまっていることは、母子健康手帳で確認されます。
● 今、どんなことに悩んでいるか
● これまでどのように成長してきたか
● 家族構成や日常生活について
● 保育園・幼稚園、学校など、家庭以外での子どもの様子
● 身体症状の有無
また、ADHDが疑われる場合は、診断基準に挙げられる項目(「不注意」「多動性・衝動性」など)に沿って医師から保護者に質問され、それがいつごろどのように現れて、どれくらい続いているのかといったことや、他の神経発達症の症状がないか、医師によって確認されます。
子どもとの面談・行動の観察
子どもの年齢にもよりますが、医師と子どもが直接やりとりをするだけでなく、親子の交流の様子や行動観察から、その子の知的発達の状態や神経発達症の特性について確認されます。
検査
子どもの状態を把握するために、発達検査や知能検査、場合によっては脳波検査などが行われる場合もあります。検査は、初診時は子どもが緊張していることが多いため、日を替えて行われるのが一般的です。
こうしてさまざまな情報が把握された上で、「お子さんはこのような傾向があるかもしれない」「このようなことが苦手で、このようなことは得意なようだ」といった見立てが医師から保護者に伝えられ、今後の方針を相談します。
診断にあたって
医師は親子との面談や行動観察、検査結果などを踏まえ、ADHDの診断基準を用いて診断を行います。
診断は、12歳以前から発達水準に不相応な不注意、多動性・衝動性の一方あるいは両方が、2ヵ所以上の場所(家庭と学校など)で半年以上続いていることが要件となります。そのため、保護者や保育者・教師からの情報が重要になってきます。ですので、こういった情報を正しく収集するには、学校の先生方の協力も必要となります。
また、診察の所見だけでなく、発達検査や知能検査の結果を参考にして診断することもあります。ADHDにはさまざまな併存障害が起きることもあります(「ADHDに伴いやすい事象」の詳細は
コチラ )。そのため、経過を見て、より正確な診断を下すこともあります。
診断を前向きに生かして
「うちの子はADHDかもしれない」という思いで受診をしていたとしても、実際に「ADHD」と診断をされるとそれが受け入れられず、心が揺れ動く保護者も多くいます。
診断は、子どもに障害があるか無いかを伝えるだけのものではありません。子どもが抱えている困難が、どういう原因で起こっているのか、改善するためにはどういう対応が必要なのか、今後どのように関わっていけばよいのかを知るための手がかりとなるものです。また、子どものことを学校などと共有するための一つの参考にもなります。
監修(五十音順)
- 医療法人南風会万葉クリニック 子どものこころセンター絆 センター長 飯田 順三 先生*
- 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 知的・発達障害研究部 部長 岡田 俊 先生*
- 白百合女子大学発達心理学科 教授 宮本 信也 先生*
- *監修いただいた際のご所属先とは異なります