ADHDの治療は「心理社会的治療」と「薬物治療」に分けられ、一人ひとりに合った治療計画を立てます。 まずは、環境調整などの心理社会的治療から始めて、対人関係能力や、社会性などが身につくような支援を行い、必要に応じて薬物治療も一緒に行います。
ADHDの心理社会的治療
ADHDと診断されてまず検討されるのが、この「心理社会的治療」です。心理社会的治療の一部を紹介します。
環境調整
本人の困難さに沿って、生活しやすいように周囲の環境を工夫することを「環境調整」といいます。例えば、忘れ物がないように次の日学校に持っていく物リストを作り、親子で一緒に確認する、授業中にさまざまな刺激を受けにくい席にする、などの対応が考えられます(「全ての子どもが過ごしやすい学級づくり」の詳細はコチラ)。
行動療法
望ましい行動ができたときには褒めるなど、子どもにとって好まれるフィードバックを行い、望ましい行動を強化させます。望ましくない行動については、その行動を強化してしまうようなフィードバックを避けます。あるいは、その行動に先行する状況やきっかけが生じない方法や、行動の後の対応への工夫を検討します。
ソーシャルスキル・トレーニング(SST)
社会や周り(ソーシャル)とうまく関わっていくために必要な技術(スキル)をあらかじめ身につけるためのトレーニングです。最近は療育の場や医療機関だけでなく、教育現場でも広まりつつあります。人とのやり取りや感情のコントロールの仕方、学校生活の送り方などを、指導者と一対一や小集団グループで学びます。状況に応じて適切な行動をとれるようになることは、自己肯定感を高めることにもつながります。SSTでの学びを復習することがとても大切になります。
ペアレントトレーニング
同じ悩みを持つ保護者が集まり、行動療法の理論に基づいて子どもの行動を理解し、関わり方を知るプログラムです。子どもの適切な行動を増やすとともに、不適切な行動を減らしていくような関わりを学んでいきます。親子のやり取りがスムーズになり、保護者のストレスが軽減されることも目的の一つです。最近は医療機関だけでなく、自治体全体で子育て支援の一つとして取り組む地域も出てきています。
ADHDの薬物治療
薬物治療は、環境調整などでは改善が困難である場合、心理社会的治療と並行して実施される治療です。
ADHDの薬は、脳機能の働きを助け、特性によって現れる症状を和らげることを目的に使われます。症状を緩和することで、さまざまなスキルを習得しやすくなるというのも利点です。
現在、日本でADHDに使われている薬は、6歳から処方することができます。処方する際は、医師は十分にその効果や副作用について説明をします。
なお、薬は、ずっと飲み続けなければならないというものではありません。薬の減量や中止は本人の状態と周囲の人たちが本人の特性を理解しうまく対応できている状況の2つが長期間持続している場合に検討されます。
こういった状況を把握するためには、毎日の学校での様子を記録するなど、教師の協力が重要となります。
監修(五十音順)
- 医療法人南風会万葉クリニック 子どものこころセンター絆 センター長 飯田 順三 先生*
- 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 知的・発達障害研究部 部長 岡田 俊 先生*
- 白百合女子大学発達心理学科 教授 宮本 信也 先生*
- *監修いただいた際のご所属先とは異なります