症状
初期の卵巣がんは症状に乏しいため、気づかれにくいがんといわれています2)。進行すると、腫瘍が大きくなりお腹が圧迫されるため、以下のような症状があらわれることがあります4)。
卵巣がんの症状、原因、検査や遺伝との関係について紹介します。
卵巣は、子宮の両側に位置する親指大の器官で、骨盤の内側にあります。卵子の生成・成熟・排卵や、性ホルモンの分泌を行う器官であり1)、卵巣がんとは、この卵巣に発生した悪性腫瘍のことをいいます 2)。
日本では、卵巣がんを発症する女性は40代から増え始め、50~60代でピークを迎えます。卵巣がん患者数は近年増加しており、2020年には1年間で12,738人が新たに卵巣がんと診断されました3)。
卵管に発生したがん(卵管がん)も卵巣がんと同様に診断、治療が行われます。卵巣、卵管に腫瘍がなく腹膜がんと診断されることもあります。
初期の卵巣がんは症状に乏しいため、気づかれにくいがんといわれています2)。進行すると、腫瘍が大きくなりお腹が圧迫されるため、以下のような症状があらわれることがあります4)。
卵巣がんの直接的な原因は不明ですが、危険因子として以下のものが考えられています5)。
ただし、卵巣がんの種類によって危険因子は異なるため、一概にはいえません。
など
卵巣がんは自覚症状に乏しいため、がん検診や他の疾患の受診時に偶然発見されることが多いがんです。がんの存在が疑われた場合、まずは内診や直腸診で子宮、卵巣や、直腸とその周囲の状態を調べます。また、腫瘍の大きさや形、卵巣以外への転移、周囲の臓器とその位置関係などを、超音波(エコー)検査、CT検査、MRI検査、PET/CT検査で調べます。さらに、血液中の腫瘍が産生する物質を調べる腫瘍マーカー検査で、治療の効果や再発の有無を確認することもあります6)。
卵巣がんは、がんの体の中での拡がり方(進行期)や、発生した組織によって分類されます。
卵巣がんは、その拡がり方によって、Ⅰ~Ⅳ期の4つの進行期に分類されます。手術中にお腹の中を詳しく観察・検査することで確認します。
卵巣がんは、発生した組織によって上皮性腫瘍、胚細胞(はいさいぼう)腫瘍、性索間質性(せいさくかんしつせい)腫瘍の3つに大きく分けられます。このうち、上皮性腫瘍が最も多く、卵巣がん全体の約90%を占めます。上皮性腫瘍は、さらに細かく漿液性(しょうえきせい)がん、明細胞(めいさいぼう)がん、類内膜(るいないまく)がん、粘液性(ねんえきせい)がんなどに分けられます。
卵巣がんの一部には遺伝的な原因があり、いくつかの種類の遺伝子の変化(一般に「変異」と呼ばれるのでここでは「変異」として記載)が知られています。卵巣がんではBRCA1もしくはBRCA2という遺伝子の変異が代表的です8)。BRCA1/2遺伝子に変異があると、DNAの傷を修復する仕組みの相同組換え修復がうまくはたらかなくなります。この修復異常の状態を相同組換え修復欠損(HRD)といい、BRCA1/2遺伝子の変異以外でも、HRDになることが知られています。
卵巣がん治療では、BRCA1/2遺伝子変異やHRDを有する患者さんに対して効果の期待できる薬剤があるため、遺伝子検査が積極的に行われています。
BRCA1/2遺伝子に変異があると、卵巣がんや乳がんを発症しやすいことが分かっています9)。日本人では、卵巣がん患者の約15%にBRCA1/2遺伝子変異が認められます10)。BRCA1/2遺伝子の変異は血液から調べることができ、BRCA1/2遺伝子変異陽性(変異を生まれつき持っている)の場合、血縁者も同様に陽性の可能性があります。なお、変異を生まれつき持っていなくとも、がんでのみBRCA1/2遺伝子変異を認めることもあり、この場合はがん細胞(組織)を検査することで分かります。
近年、卵巣がんではHRDが注目されており、海外では、卵巣がん患者(漿液性がん)の約50%がHRD陽性と報告されています11)。HRDは、がん細胞(組織)のさまざまな遺伝子を解析することで陽性・陰性を判定します。
卵巣がんの治療には、手術、薬物療法(化学療法や維持療法)、放射線治療などがあります。基本的には、手術で可能なかぎりがんを取り除いた後に化学療法を行い、さらに再発を防ぐことを目的とした維持療法を行うか、経過観察するかを選択します。場合によっては、化学療法によってがんを小さくしてから手術を行ったり(術前化学療法)、2回目の手術を行ったりすることもあります。
卵巣がんでは基本的に、両側の卵巣と卵管を摘出し、子宮も全て摘出します。また、胃のあたりからお腹の臓器をおおうように垂れ下がっている脂肪組織の大網(だいもう)と、卵巣の近くに位置する骨盤リンパ節と傍大動脈リンパ節(後腹膜リンパ節)を摘出し、がんの転移の有無を確認します。さらに、腹水や腹腔内の組織を採取し、がんの拡がり具合を診断します。
手術を行ったとき、すでにお腹の中にがんが拡がっている場合は、完全に取り切れなくても、できるだけ多くのがんを取り除く腫瘍減量術を行います。手術後に残ったがんが小さいほど、その後の治療成績がよいことが分かっています。
化学療法は、抗がん剤によってがん細胞の増殖を妨げ、がん細胞を攻撃する治療で、タキサン製剤、プラチナ製剤と呼ばれる2つの薬剤の併用が一般的です。基本的に卵巣がんでは、手術後に化学療法(術後化学療法)を行います。進行期によっては、分子標的治療薬を併用することもあります。がんが広範囲に拡がっている、または全身状態が悪いなどの理由で手術が難しい場合は、手術前に化学療法(術前化学療法)を行い、がんを小さくしてから手術を行うこともあります。
手術や化学療法で卵巣がんを治療した後に行う、がんが再発したり、大きくなったりするのを防ぐための治療を維持療法といいます14)。維持療法には分子標的治療薬が用いられており、血管新生阻害薬とPARP(パープ)阻害薬の2種類があります。
放射線治療は、がん細胞に放射線を当てることで死に至らしめる治療です。基本的に、初めて卵巣がんになったときに放射線治療は行われません12)。
手術や化学療法による卵巣がん治療が終了した後、再発の有無を確認するために、定期的な検査が必要になります。初めての治療から1~2年目は1~3ヵ月ごと、3~5年目は3~6ヵ月ごと、6年目以降は1年ごとを目安に、問診や内診、超音波(エコー)検査に加え、必要に応じて腫瘍マーカー検査、CT検査などを行います6)。
監修:東京大学大学院医学系研究科 医用生体工学講座統合ゲノム学 教授 織田 克利 先生