卵巣がんの手術でリンパ節を取り除いた場合、体の中の老廃物を運ぶリンパ液の流れが悪くなり、むくみ(リンパ浮腫)を生じることがあります。下腹部や会陰部(えいんぶ)、脚などにむくみが生じやすいとされています。手術直後にむくみがあらわれる人もいれば、手術から10年後にあらわれる人もいます1)。
次のような症状があらわれたときは、リンパ浮腫の可能性があります2)。
付き合う
卵巣がんになって患者さんが悩んだことと、そのケアを紹介します。
下腹部や脚のむくみ
- 下腹部や脚になんとなく違和感がある
- 脚がだるい
- 靴がきつくなった
- 靴下や靴のあとが残るようになった
- 歩くと以前より疲れやすい
- 下着や衣服がきつく感じるようになった
- 正座がしづらくなった
むくみを放置すると急激に悪化することもあるため、下腹部や脚の状態を毎日チェックし、症状があらわれたら早めの対処が重要です。むくみには、日常生活の工夫、スキンケア、リンパ誘導マッサージ、圧迫療法、圧迫下での運動療法などを組み合わせて対処します。
下腹部や脚のむくみについてのQ&Aはこちら日常生活の工夫
立ちっぱなし、座りっぱなしなど同じ姿勢を続けることは、むくみの悪化につながります。適度に足を動かしたり、姿勢を変えたりしましょう。床に座るときは正座をせず、足を前に投げ出して座るようにしてください。眠るときは足元にクッションをあてて脚を高めに保つことで、リンパ液が溜まるのを防ぎます。椅子に座るときは足を踏み台の上に乗せるなど、足を下げたままの姿勢を避けるようにしましょう1)。
きつい下着や靴下を履くと、リンパ液の流れが悪くなるので注意してください3)。
ストレッチなどの軽い体操や、縄跳び、ウォーキングなどの軽い運動によって、むくみを軽減することができます。中でも水中歩行は、水圧によってリンパ液の流れがよくなるため効果的です。ただし、疲れるとむくみは悪化するため、過度な運動にならないようにしてください。
スキンケア
むくみが起きているところは細菌に感染しやすい状態になっているため、わずかな怪我から蜂窩織炎(ほうかしきえん)などの炎症が起こることがあります3)。蜂窩織炎になると、皮膚の深い部分に炎症が起きて広範囲に赤く腫れ、発熱、悪寒、頭痛や関節痛などの症状があらわれます1)。重症化すると入院が必要になるので、症状があらわれたら早めに医療機関を受診してください。予防のためには、刃物による
傷や、かぶれ、虫刺されなどに注意してください3)。
皮膚の清潔を保つことも大切です。手術で卵巣を取り除くと女性ホルモンが不足し、皮膚が乾燥して汚れやすくなるため、石鹸で皮膚を洗った後には保湿クリームなどで乾燥を防ぎます1)。
リンパ誘導マッサージ(リンパドレナージ)
リンパ誘導マッサージとは、皮膚の下に溜まっているリンパ液を健康なリンパ管(リンパ液の通り道)に流すことで、むくみを改善するマッサージです4)。一般的なマッサージほどには力をかけず、皮膚の表面を軽くさするようにやさしく、体の末端から心臓へ向けてマッサージします1)。
下腹部や脚のむくみには、まずは鼠径部(そけいぶ)や太ももの内側を、心臓の方向に向けて、皮膚の表面を軽くさするようにマッサージします。次に太ももを後ろから前に向けてマッサージし、続いてふくらはぎ、足の甲の順に、下から上へ同じようにマッサージします。病院では、訓練を受けた看護師や理学療法士が指導します1)。
脚のリンパ誘導マッサージ1)
患者さん自身がやり方を習得し、自分で行うマッサージ(セルフリンパドレナージ)は手軽にできますが、間違ったやり方で行うとむくみを悪化させる可能性があるので、必ず医師の指示に従い、専門家の指導のもとで始めてください。
圧迫療法
圧迫療法は、むくみを解消する効果が最も高く、特に脚のむくみには欠かせない治療法です。弾力のある包帯(弾性包帯)や弾性ストッキング(弾性着衣)によって適度な圧力で脚を圧迫し、リンパ液の流れをよくします3,4)。マッサージ後に弾性包帯や弾性ストッキングを着用することで、むくみが軽減した状態を維持し、さらに改善できます。着用したときに食い込みや痛み・しびれがなく、動きに支障のない、自分に合った圧のものを使用することが重要です5)。
弾性包帯(バンテージ療法)
スポンジ包帯や弾力のある特殊な包帯を、足先から足の付け根に向けて巻きます。日々の状態に合わせて圧力を調整できるほか、重症のむくみにも効果があります。巻き方が特殊で、圧の加減を覚える必要があるため、自分で巻く場合は専門家の指導を受けてください4)。
弾性ストッキング
弾性ストッキングは、リンパ液や血液を上半身に向けて押し上げるように設計されたストッキングで、足首に最も強く圧がかかり、ふくらはぎ、膝、太ももにいくにつれて段階的に圧が弱くなります1)。初めて着用する際は、医師に相談し、自分に合った圧・サイズを選びます。
圧迫下での運動療法
弾性包帯や弾性ストッキングで脚を圧迫したまま適度な運動を行うと、筋肉の動きによってリンパ液の流れがよくなります。足の関節や膝の曲げ伸ばしなどを、無理のない範囲で継続します。散歩を兼ねたウォーキングなどもおすすめです4)。
用語集
- 会陰部(えいんぶ)
- 女性では腟と肛門の間の部分6)
- 鼠径部(そけいぶ)
- 太ももと腹部との境近くの、下腹部の少し盛り上がった部位7)
- 加藤 友康 監修:最新 子宮がん・卵巣がん治療 “納得して自分で決める”ための完全ガイド(「あなたが選ぶ治療法」シリーズ), 主婦と生活社, 東京, p120-123, 2018
- 加藤 友康 監修:手術以後のすごし方 子宮がん・卵巣がん そのあとに…, 保健同人社, 東京, p111-112, 2015
- 日本婦人科腫瘍学会・日本産婦人科乳腺医学会・日本女性医学学会 編:婦人科がんサバイバーのヘルスケアガイドブック, 診断と治療社, 東京, p86-96, 2020
- 加藤 友康 監修:手術以後のすごし方 子宮がん・卵巣がん そのあとに…, 保健同人社, 東京, p113-124, 2015
- 日本婦人科腫瘍学会 編:患者さんとご家族のための子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん治療ガイドライン 第3版, 金原出版, 東京, p205-208, 2023
- 伊藤 正男ほか 編:医学書院 医学大辞典 第2版, 医学書院, 東京, p238, 2009
- 伊藤 正男ほか 編:医学書院 医学大辞典 第2版, 医学書院, 東京, p1699, 2009